「へぇ、レタス号三世って、チキチキバンバンがモチーフになってるんだ?」


踊るように軽やかに俺へと擦り寄る林檎。彼女の肩には俺が作った自動尺取り虫がうにょうにょ動いていた。


「モチーフっつーか、ほぼオマージュだな」
「パクリだ」
「オマージュだ」


また林檎は――――踊る。
ただ歩いているだけなのに、ただ手先を動かしただけなのに。
それは洗練された振り付けのようで思わず見蕩れてしまうほど優雅だった。


「じゃあこの車はいずれ空も飛べるし海をも渡れるってわけだね」
「ああ。完璧な車だろ」


俺は夢を膨らませながら林檎にそう言った。すると彼女は曖昧にぼかしたような顔をする。何も言えないような、そんな顔。
俺は首を傾げた。


「どうしたんだよ」
「……んー、とね」


苦笑する林檎。
その表情は、子供をあやす母親さながら。
彼女はレタス号三世のミラーを指でなぞりながら。


「完璧って、つまんないよ」


よくわからなかった。
俺の訝しむ態度に、彼女は肩を竦めて見せる。

変なやつ。

俺はとにかく作業に没頭しようと視線を手元に戻す。

レタス号三世はポッツ博士の傑作チキチキバンバンをモデルにしている。空を駆け、海を巡り、障害も何も世界の足となる。ただし、そのあまりにも規格外でお伽話じみた夢を叶えるには、それに適い敵ったエンジンを用意しなければならない。そしてそのスペックに見合うだけのエンジンは、俺の技量では儚く遠い。


「息詰まってるみたいだね」


苦しそうだよ、と。また林檎はくるくる回った。
まだ出会って数時間しか経ってないのだが、俺は彼女についての多くを知った。一つに、無駄な動きが多いということ。彼女は無闇に踊り、優雅に舞う。身のこなしもさることながら。これでは舞台で繰り広げられる典霊華美な舞踏のよう。それがあまりにも洗練されすぎて、その動作を含めた彼女の生きる姿が、とても美しく見えてしまう。

これじゃあ、まるで蝶だ。
甘い香という鱗紛を巻き散らしてひらひらと漂い飛んでいる蝶。


「あと、エンジンだけなんだ?」
「ああ」
「心臓が無いのとおんなじだね」
「痛いところをつくな」
「痛いところはついてないって。居たいところに憑いてるだけ」
「はあ?」
「私なら、この車動かすエンジン作ってあげられるよ?」


俺は目を見開く。


×/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -