「ねえ、聞いてよ。もうすぐ定期発表会だっていうのに、苺味ったら何を発表会するのか教えてくれないの!」


まるで踊っているかのような美しい身のこなしだった。花びらが舞い上がるように視線や指は移ろって、靡く髪や服は飾り付けられた羽衣にさえ見える。


「だから私怒ってここまでブッ飛んできてやったんだ。今頃心配してる筈。ざまあみろ!」


荒っぽい言葉だって、まるで歌っているよう。軽やかで清々しくそして何より綺麗だった。


「ちょっと、聞いてるの?」


俺の作った電動ネコジャラシでびしびしと地味な攻撃をしてきた。俺はぽかんと口を開けたまま、目の前の女に問う。


「お前さん、誰?」
「私? 赤果実林檎(あかがみ・りんご)」


素直だ。なんでもないという顔で彼女は笑ってみせる。


「……は、そっ……か。林檎か………赤果実………、ん? 赤果実林檎ッ!?」
「そっ。さっきから言ってんじゃんか」


林檎はからからと笑う。
俺は目を見開いた。

赤果実林檎。
《エデン》に、才知畑にいる人間なら、誰だって知っている。
驚天動地の頭脳を持つ、四番目の《赤い実》――――神童・赤果実林檎。

才知畑には《赤い実》と呼ばれる存在がいる。
全ての学問を習得し全ての知識を収束し全ての才能を集結し全ての記憶を収録した、全知全能に最も近い存在――才能畑が総力をあげて育て続けている、才知畑研修生のトップの通称だ。

そして近年。
過去最高の能力を身につけ、歴代最高の知識を要した、史上稀に見る奇才が現れたと。

それが。

四番目の《赤い実》――――赤果実林檎。


「あっ、だからってあんまり畏まらないでね。私大した存在じゃないからさ」
「いや、あ、えっ、無理、動揺が身体に広がってる」
「Do you!?」
「お前さん結構アホいな!」


ウインクで星を飛ばしながら言う林檎に、俺は思わずシャウトしてしまった。


「っていうか。いいのかよ。お前さんみたいな人間がこんなぼろっちいラボなんかに来て。温室で大事に大事にされてるって聞いてたけど?」
「そう、そうだよ。私黙ってここに来てんの。勿論バレたらヤバいヤバい!」


ひょいっと鋼板の上を飛んで華麗に着地する。くるくるくるりと廻って、梯子に脚を引っ掛けて身体を反らしバランスを取る。


「すんごく退屈なの」
「退屈?」
「退屈。温室にいてもすることはないし、《赤い実》である私は他の研修生のやる気を削がない為にも、発表会にすら参加出来ない。あんまりだよ! だから脱獄してやったんだ!」


脱獄とは余りな言いようだった。
あくまで《エデン》は彼女を丁重に扱っている筈だし、持て囃したりもしている筈だ。

俺はレタス号三世に凭れて、「ふぅん」と生返事する。


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