俺は、気づけば《そこ》にいた。
俺を産んだ両親も、多分《そこ》にいたんだろう。
気づいたときには、もういなかったけどね。
そこは本当に暗い場所だった。
暗くて、じめじめしてて、それでいて寒い。
曜日という感覚も、時間という感覚も、何も知らずに俺は育ってしまった。
でもそれは《そこ》では当たり前だった。
当たり前の、ことだった。

俺達は何も知らずに。
そして何も抱けずに。
自分達の運命に喘ぎながら、生きて活きて逝きて往くんだと、そんな風に思っていた。
永遠の檻。
究極の獄。
浮かび上がることも許されない、暗い《底》の中で。



*****



《ギルド》は地上四階、地下二階に及ぶ六層建築の建物だった。ユリカゴと呼ばれる簡易なエレベーターと螺旋階段とその中央にある太い滑り用手すりが主な上下運動方法。地下には食料の備蓄倉庫や温室、シェルターなどがあり、一階は他目的、二階から四階は居住室となっていた。
《ギルド》内の案内を琢磨にしてもらいながら、俺達は琢磨の話に耳を傾ける。


「堅固は元々、死刑執行奴だったんだ。死刑執行人なんて厭らしい仕事は、奴隷に任せちまおう、なんて……そんなこったな」
「奴隷、ねえ……」
「まあ、何処のお国にだってあるよなあ奴隷なんて。元は普通の家庭の次男坊だったらしいが、ある日奴隷狩りにあって、そのまま数年奴隷商の奴隷育成機関で“ケンシュウ”を受けて、そっから二十年以上も、死刑執行人してたみたいだぜ」
「……………」
「ファナ、……あいつもそうだ。あいつは赤ン坊の時に奴隷狩りにあって、ケンシュウ無しで奴隷商からバイヤーに直送。その買い取り主はよっぽどヤバい奴だったらしいな……。耳が聞こえなくなるまで“教育”されて、ずっと働かせられてた」


足音の響く音を聞きながら、螺旋階段を上っていく。吹き抜ける風に髪が弄ばれてはふわりと和らぎ流れる。


「お前もか?」
「ん?」
「琢磨、お前も元奴隷なのか?」


気まずそうな萵苣の声に、琢磨はきょとんと目を見開いた。そして柔らかく笑って、「お前はいいやつだな」と言った。


「俺はまだマシだよ。堅固みたいに何十年も奴隷だったわけじゃない。ファナみたいに耳潰れるまで痛め付けられたわけじゃない。今俺は十八だが、十八なんて若い時期で奴隷引退を果たせた。目も耳も鼻もいい、身体に異常は一つもない。俺はまだ、報われてる」
「……………」
「他の連中、まだ足枷が外れない奴までいるんだ。よほど硬い足枷なんだろう、成長するたびに足が締め付けられて可哀相だ。他にも手錠の外れない奴。足枷の痣が残ってる奴。ケンシュウや教育――奴隷の時の主の恐怖を、未だリアルに夢に見る奴さえいるんだ」


一つ置いて。


「みんな、奴隷狩りを恐れてる」


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