「…………――――――」
「……………」
「……おはよう」
「おはようっす、騒禍さん」


目が覚めた瞬間、既に起きていた三月の顔が視界に広がった。
しかし、一晩寝たと言うのに、彼は昨日よりも酷い顔色だった。目が少し赤くなっていてぼやぼやするように解れている。目の下にはやはり昨日以上のクマが見れた。全体的に眠そうな表情であるは変わらず、それどころか、顔のパーツ一つ一つには怒りの色が見られた。不満げにこっちを見つめてあたしの手を掴んでいる。

あたしは、もぞりと布団の中で動く。


「よく眠れた?」


彼の眉間に皺が寄った。
ご機嫌ななめ、なんて可愛いレベルじゃなかった。
あくまで表情に乏しいが、それでもれっきとした凶々しい目付きをしている。

怖いって。
あたしが何をした。


三月は「なんで俺がこんな……」だとかそんな感じのことをぶつぶつと呟いて布団から出た。布団をめくった瞬間冷たい空気が中に入ってきてあたしは思わず肩を震わせる。
そして暫くして、彼はあたしに何か言おうと口を開く。しかしその瞬間急に罰が悪そうな顔をして、目を伏せて黙りこくった。あたしが「なに?」と聞くと「なんでもないっす」と掠れた声が返ってきた。
気持ち悪いなあ。
まあ。
いいけどね。


「…………騒禍さんは、よく寝れたみたいっすね」
「んー? まあ、そうかな」
「寝てるときのあんたって死んでるみたいでびっくりした」
「死んでないって」
「でも、時々はにかんでたっす……。きもかった」
「あはははははっ。縛るよ?」
「騒禍さん、なんかいい夢でも見てたんすか?」


そこで私は布団をまくった。ベッドに座ったまま首を傾げて笑う。


「まあね」
「へえ。気になるものっすね。あんたみたいに悪趣味なキチガイを笑わせる夢なんて。……戦争でも見てたんすか?」
「あんた本気で最近生意気じゃない? ――――むしろ、その逆だった」
「……………はあ?」


三月は少しだけ訝しんだ。


「本ッ当にわけわかんないよね。あたしが仕掛けた戦争も喧嘩も、片っ端から和解させられたり仲直りさせられたりしちゃう夢。あたしはそれが悔しくて悔しくて、見返してやりたくて、もっと過激なものを起こすんだけど、全ッ然盛り上がってくんないの。止められてぶち壊されて崩されて――最後みんなは笑ってる―――――あたし一人を、除いてね」


あたしはベッドから下りて服を脱ぐ。そのまま目の前のクローゼットに移動して開けた。ゆらゆらと揺らいでいるシフォン系の服が、あたしの前に現れた。


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