「来るのが遅れて悪かったね、お待たせ」


目が慣れてきやがった。その現れたものの姿を見た瞬間、なんとなく敗北した気がした。見るんじゃなかった。


一輪車に跨がる……肩車した二人組の人間。

肩車された方は、体格的には女にあたるだろうか。下の人間よりも華奢で線も丸い。しかし、女に当たると判別しづらい不安要素が顔面に張り付いている。
ガスマスクだ。
深い濁色のガスマスクが、その顔面を覆っていた。
目元の特殊ガラスから覗く瞳は大きく丸い。なんとなく愛らしい印象を受けるがされどガスマスクだった。しかも服が明らかに私服なのでまた気持ち悪く見えてくる。

肩車した方は体格的に男だろう。またこっちも判別しづらいのは、ガスマスクとまではいかないにしろ、怪しげなもので顔面を覆っているからだ。
紙袋である。
長方形の黄土色の紙袋により、頭部がすっぽりと覆われている。目元だけ明けられた穴がやはり異様だった。こちらも私服で、だからこそ異様を引き立てている。


「…………はぁ?」


しかし、その異様よりも目を奪ったのは。
ていうか。
真っ先に目を奪ったのは。
その二人の、付属物だ。

紙袋男は右手に、背丈の三倍はあるだろう大きな扇を握っている。装飾含めて何十キロあるのか考えたくも無い。
そしてガスマスク女も、だ。こっちは扇ではない。驚愕すること請け合い、太鼓を背負っていた。巨円形に並べられた太鼓を、背中から羽根のように生やして、両手には木製の撥を構えている。雷神にでもなったつもりか。きっとそうに違いない。

血の気の引きと驚愕の引きで、俺は腰を抜かしてしまった。

あんなに重たそうなもの持った二人組が、一輪車に乗りながら器用にも肩車している。

異様だ。
異様の極みだ。
誰か、警察を呼べ。
目の前にいる二人組以外の。


「よ、かった……」
「茄子?」


傍で苦しげにうずくまる茄子。
安堵したような声でぽつりぽつりと呟く。


「あの……二人は、この国とこの国の住民を、……ま、もる、守護神って……、言われてる………」
「守護神……」
「あの二人がいれば、も……安心だよぉ………」


俺は目を見開く。
その瞬間、背後で、ワアワアと歓声が広がった。

さっきまで俺達のいた場所だ。あの民衆たちが、活気立ってこちらを見上げている。


「すげぇ! 見たか、今の!」
「ったりめえだぜ! ウラオモテ警察の風神、水倒火転(みとう・ひこか)さんの疾風怒涛!」
「通報したやつ誰だよ!」
「ナイスだねッ!」
「久しぶりに生で見れたよなあ! マジですげぇよ!」
「あら! それを言うなら紫電一閃もよ!」
「ウラオモテ警察の雷神、小芥苔子(こあくた・こけし)さん!」
「あの稲妻で目ェ開けられるやつはいないって!」
「そりゃそうだ!」


また歓声が強くなる。
口笛や黄色い声が高鳴る。
なるほど。
あの異様な二人は、この国じゃあヒーローらしい。


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