真夜中。
俺尾レオの家のある一室を借りれた俺達は、盛大に布団を敷き雑魚寝していた。今更俺達に男女がどーのは関係ない。いつもの三人プラスフルボトル姉妹というメンツで就寝することに相成った。
朝昼晩食トイレ風呂有りで部屋まで貸してくれるなんて本当にありがたい。
ありがたいが、引き換えになったものは尊い。
それでも俺たちは今日のノルマを熟し、布団に潜っていた。暫しの静寂のあと、そうはさせぬとも取れるようなタイミングで、


「あたしには母親が二人いたわ」


――硝子は、言う。
夜の清閑に、その煌めく声がやけに浸透した。

確か、少し前にも同じことを言っていた。母親が二人いる。そんなことを。


「産みの親はミスユニバース――世界一美しい女性だったそうよ。育て親は、産みの親と美しさを競い、負けた相手……あたしの母親は、二人いるわ」
「なるほどな……産みの親の方は死んだのか?」
「ええ。交通事故で。父親も一緒にね。二人とも天涯孤独だったらしくって、友人だった育ての親の方があたしを引き取ったってわけよ」


硝子は苦笑した。


「育ての親は、産みの親のライバルだったらしくってね。いつもいつも言っていたわ」


アタシもあと少し顔が整っていたら、アタシもあと少し肌が白かったら、アタシもあと少し声が美しかったら、アタシもあと少しスタイルが良かったら、アタシもあと少し笑顔が綺麗だったら。
アタシが世界一に選ばれただろうに。

世界一、“彼”に愛してもらえただろうに。


「あたしの父親を、育ての親は愛していたのね。だから《世界一》という座を二つも奪われたことから、あんまり産みの親が好きじゃなかったみたい」
「……じゃあ、お前のことは、その子供である、硝子のことは、」


勿論。


「愛してなんてくれなかったわ」


硝子は目を伏せる。
長い睫毛が影を落とした。


「愛しなんてくれなかったし、それは物心着いたときから言われていたことよ」
「……………」
「だけどね」


硝子は薄く瞳を開く。


「“アタシはアンタを愛せない、彼女と彼の娘だなんて、一生かかっても愛せない。でも、愛されない人間ほど、哀しいものってないわよね――、”」


“子供のアンタにそんな可哀相なことさせるほど、アタシも捻くれちゃいないわ”

“アタシはアンタを愛せない、絶対に愛せない”

“だから、”

“愛される方法を教えてあげる”

“誰からも愛される女性にしてあげる”

“アタシは絶対、アンタを愛せないけど、代わりに皆から愛されるようになるでしょうね。それならアンタは可哀相じゃないし、哀しくもない。愛してはあげられないけど、愛されさせてあげるくらいは、してあげる”


×/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -