「地図に載ってない……だと?」
「うん。どーっこにもない。見も付からなければ、見にも当たらないよ。第一、なんなの、そのウラオモテランドってとこ。きな臭くない?」
「わかんねえ。硝子がぶん盗ってきた標識に書いてあったんだよ。ディスパラノイア街からもだいぶ離れたし、流石に車生活も辛くなってきたもんで、そこに滞在しようかって思ってたんだがな……」


俺は眉を寄せた。

地図に無い、ねえ。

硝子も困ったように首を傾げている。魚は眠たそうに欠伸をしただけだった。
そこで、ミラー越しにフルボトル姉妹と目が合った。二人は「ねえねえ」と体を揺らしている。


「なんだよ」
「おにーさんって可哀相な上に無知なのー?」
「ドンマイな上におバカさんなのかー?」
「おい姉妹、一体なんなんだいきなり。なんで俺はお前らに罵倒されなきゃいけないんだよ」


奇抜な格好にチカチカした目を細めたまま、俺は二人に言った。
しかし二人は悪びれもせず、無邪気な声音で俺に返す。


「「地下」」


わけのわからない言葉に、場は静まり返った。


「…………は?」
「だから」
「地下にあるんだよ」
「地上じゃないわ」
「地下だぜ?」
「ウラオモテランドは」
「地下都市なんだよ」
「だから地図に?」
「載ってなーい!」


掛け合うように二人は言う。ぴょこぴょこと軽やかに。からころと遊ぶように。それこそ、しりとりをする子供のように、にこにこと笑って肩を揺らした。
俺の知らないことを披露出来たその心境はご満悦と言ったところだろうか、二人はその紅顔を綻ばせる。


「だからあたしも聞いたことがなかったってことかしら?」


硝子は首を傾げた。


「そうよ。ウラオモテランドは事実、政府に環境事情を申請してないの。だから地図には反映されない。当たり前よね。そもそも“ウラオモテランド”なんて、無いんだもの」
「もとは地上にあったみてぇなんだけど、なんか都市が二つの派閥争い勃発させたらしいんだな。その争いに勝った勢力は地上の権利を得、負けた勢力は逃げるように地下へと身を寄せたってわけだ」


学校に行ってないとのことだが、案外二人には教養があるらしかった。いや。教養というよりは、ネットワークか。まあ適度に過度な情報が無いと、殺し屋なんて出来ないだろうし。当たり前といえば当たり前だった。


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