「おにーさん、大丈夫? 俺達に何か出来ることはないかしら」
「おにーさんの為ならあたし達、言われなくても何かしたいんだ」


奇抜な服装とはいえ。
奇抜な口調とはいえ。
それほど悪くない顔立ちをしたうら若き年頃の少女二人に、こんな優しくも甘い言葉を囁かれているのだ。
男なら誰しも恍惚するだろう。

でも。


「おにーさんみたいな成人した男の人に土下座させちゃうなんて」
「そうだよな、そりゃ死にたくはねえよな。土下座して懇願したくもなるよな」
「ごめんなさいね、おにーさん、大丈夫よ。俺達はもうおにーさんを殺したりはしないわ」
「弱くて可哀相なおにーさんの為に一肌も人肌も脱ぐ所存だぜ!」


違う――違うんだよ。

諦観した眼差しで、俺はフルボトル姉妹を見つめていた。ドリルもチェーンソーも構えていない状態である二人に対し、尻込みしつつもある。
魚は呆れたように、硝子は楽しそうに、俺のその様子を見つめていた。
いっそ泣きたかった。

ハニー・フルボトル。
シュガー・フルボトル。
双子の姉妹で殺し屋を営んでいるらしい十六歳。
奇抜な見目と奇抜な武器から、嗜虐的かつ残虐的かつ暴虐的なイメージが先行しがちなのだが本質は全くの逆だった。
甘々のでろでろだ。

実に彼女たちは甘温かった。
実に彼女たちは優しかった。

土下座したら許してくれる殺し屋なんて聞いたことがない。“土下座して許す”なんて響きはそれだけで外道に聞こえなくはないのだが、彼女たちの目は無垢そのものだった。
オマケに、土下座なんて屈辱的なことをさせてしまった詫びと車を使えなくさせた詫び(大部分を前者が占めている)として、自分達に出来ることは何でもするとさえ言ってくれている。

実に将来の心配な二人だ。


「えっと……別にいいから」
「良くないわおにーさん! なんでも言って! とりあえずタイヤの修理費なら出せるわ…………出せたわよね?」
「確か今月ギリギリだった気がするけど、そんなのは関係ねえ!」
「そうよね、ハニー! 足りないようだったら臓器でも売ればいいんだもの!」


やめろ!
優しい通り越して重いわ!


「おにーさん遠慮は良くないんだぜー? あたしたちに何でもお頼み申しあそばせて結構なんだからなっ!」


元気な笑みを浮かべてハニー・フルボトルは言った。

なんというか。

やっぱり外国人なわけで、言語が色々とメチャクチャだった。聞いてて居心地が悪い。おまけに妙にむず痒くなる。

あんまり気を遣わせるのも何なので、脳みそからあってないような語学力を振り絞って彼女達に告げる。


「The only thing(なら、一つだけ……)」
「OK(いいよ)」
「Your wish is my command(なんなりと)」


よし、なんとか通じてるようだった。


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