“……これはなんですか”
あたしは看護婦に問い掛けた。
デッドリーストライクの水槽の横に並べられた、大画面テレビ。そこに映っていたのは、何やら戦々恐々とした様だった。
半ズボンと硬そうな手袋をつけた男二人が、正方形の舞台の上で殴り合う、なんとも言えぬ様子。
看護婦は慌ててチャンネルを変えた。あたしは首を傾げる。
今のはボクシングの試合ね。
女の子が見ても楽しくないわ。
そう言ってテレビに映ったのはパペットマペットの人形劇だった。大体から推測するに、ありふれた寓話のようだ。
あたしは暫く画面を見つめて、看護婦に呟く。
“――――戻して下さい”
看護婦は目を瞬かせる。
“さっきの、その、チャンネルに戻して”
不思議そうにあたしを見つめて、彼女はチャンネルを戻した。
丁度、赤い手袋の男の人が、黒い手袋の男の人の頬を殴ったところだった。看護婦は顔をしかめる。すぐに視線を生命維持装置へと移す。
でも。
あたしの視線は移らない。血を流すその画面に釘付けになった。
ガスンガスン、と嫌な音が鳴ってそのたびに人が呻く。しかし彼等はまた立ち上がって相手を殴りにかかる。
あたしは、口角をあげた。
“――――――あははははっ”
端から見たら、狂気だったのかもしれない。
端から見たら、狂喜だったのかもしれない。
けれど。
“いいなあ”
あたしにとっては、純粋な感嘆だった。
*****
「………………んぅ〜?」
ぱちりと目を覚ます。
どうやらあたしは寝てしまっていたらしい。ベッドに丸まるようにうずくまっていた。
そういやあ、なんか記憶が曖昧だな……先生に診察してもらって…………えっと、確かー……?
「おう、起きたかお姫様」
聞き慣れた声にあたしは視線を上げる。
薄っぺらい、多分エロ本かと思われるものを読みながら、彼は椅子に胡座をかいて座っていた。
「……キザな台詞、ダッサいくらい似合わないね」
「大きなお世話だ」
「鳥肌立った。さぶいぼー」
「あっためてやろうか」
「レンジでチンじゃ済まなさそうだね。遠く慮らせてもらうよ」
あたしはベッドから下りて伸びをした。時計を見ると四時半…………うっわ、一時間以上寝てたなんてね。
「あははっ。起こしてくれたらよかったのにな」
「寝顔見てたんだよ。寝顔だけはお前、ガキの頃と変わりゃーしねえな」
「張りと艶と病的な白さを保っておりますってねー」
そのまま、ぼふんっとあたしはベッドに座り込んだ。
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