“――は―――――なんだ”


身体中、痛くないところなど一つたりとも無かった。


「駄目です! 肺が完全に陥落状態です!」
「どうにもならないのか!」
「嘔吐も吐血も止まりません!」
「血圧急低下!」
「脚が変色していってます、どうしますか!」
「血涙まで……!」
「腐食のダメージが腎臓や胃にまで広がってます!」
「顔色がもう! 先生ッ!」
「脈拍低下してます!」
「血管に熔解反応が……!」
「とりあえず、緊急搬送を!」
「今動かすのは危険だ! ただでさえ骨軟化症で五十ヶ所以上も骨折や骨砕が起きている!」
「どうしようもない……!」
「もう、終わりか……ッ」
「可哀相に…………」

「――――戦争谷騒禍ちゃん」


身体が軋む。どろどろと溶けていくような強烈な熱が大暴走する。目の前が真っ赤で何も見えない。息をするだけで消えてしまいそうだ。どこもかしこも動かない。尋常じゃない、切り裂くような、押し潰すような、練り上げるような激動する苦痛に、声すらあげられなかった。
脈拍をとろうと看護師が腕に触れただけで。ただただ二、三度咳込んだだけで。呻き声をあげただけで――――脆くも骨が砕けた。

息も出来ない、……なんて言葉がある。
息も出来ない痛み。
息も出来ない苦しみ。
辛いことの上に付加することにより、その凄惨さを増す節だ。

――違う。

――息も出来ないんじゃない。


――息しか出来ない。


息しか出来ない痛み。
息しか出来ない苦しみ。
こっちのほうがより痛烈そうに聞こえるのは何故だろうか。しかしそんなことはどうでもいい。とにかくあのときは、息しか出来なかった。
声さえ、涙さえ、あたしにとっては毒だった。
たった一つ許された呼吸さえ、身体をこれでもかと痛め付け、細胞を滅ぼしていく。

渇ききった涙が、手術台の照明に照らされていた。口を開けたままだらだらと血やら液やらは垂れ流れる。痩せ細り過ぎた身体は見るからに痛々しい。


死に至る病。


あたしは生まれた時からこの難病に身を蝕まれていた。毎日がひたすらな地獄で、意識を飛ばしている間だけが夢のような時間で――――そんな日々を、あたしは過ごしていた。

遺伝子がどーの。
劣性がどーの。
先天性がどーの。
突然変異がどーの。

よくわからない単語の羅列が、耳に入ってくるばかり。自分が何故こんな目にあっていたのかさえ、当時のあたしには理解出来ていなかった。

あたしは金髪碧眼だ。よく外人さんに間違われる。
遺伝子異常だとか、看護師さんが言っていた気がする。先天性白皮症、所謂アルビノの症状は見られるが、にしても目は青い。確か、人間の虹彩は二つの遺伝子の組み合わせにより変わり、基本はブラウンとグリーンとブルーで表現されるのだとか。勿論マイナーな遺伝子もあるらしいのだが基本はその三つらしい。ブラウンはメラニン多量、グリーンは適度、ブルーは極端な少量によって、生まれるのだとか。二つの遺伝子が劣性な故の碧眼――――だったかな。小さい頃にゲノム表を見せられながら聞いた朧げな話だからよく覚えていない。


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