ディスパラノイア街の沈み込んだ真夜中にて。


「っれ………おっかしいな。帽子絶対ここに忘れてきたんだって思ったんだけど」
「それってコレのこと?」


一つの再会が、なされていた。


「――――――魚くん?」


自ら煌めき発光するようなプラチナブロンドのロングヘアーに、海のように蒼い瞳。色白で痩躯で美しい形をした女が、――戦争谷騒禍が、月夜の光に照らされて浮かび上がった。


「久しぶり……あんたにだけは、会いたくなかったんだけどね。戦争谷騒禍」


癖のある黒髪、鳶色の瞳。軍用のメットキャップにゴーグル、同色の軍服を着て、彼女のものと思われるナイトキャップを持った青年が、――回遊魚が、月夜の光の下でぶっきらぼうに言う。


「あははははっ! ご挨拶だねー魚くん。でもまさか、こうやって話せるとは思ってなかったよ」
「……本当なら会いたくもなかったかな」
「傷つくね」
「嘘だね。あんたは何言われてもこれっぽっちも傷つかない」


そう呟いて、俺はナイトキャップを投げやる。それはあいつの足元に着地した、あいつは「よっと」と呟いてそれを拾う。


「……やっぱり。ディスパラノイア街の一連の騒動は、あんたが原因だったわけだ」
「あったりー。褒めたげるよ、魚くん。それにしても、よくあたしがここを拠点にしてたってわかったよね。鳥が君に負けたのよりも前に、機材はあらかた運び出してたはずだし……そもそもここだって目星をつけれたのはなんで?」


ああ、と俺は嘆息する。


「ここなら、見渡せるから」


部屋をぐるりと見回した。無理矢理運び込んだような天蓋つきのベッド、青の絨毯。僅かながらでも生活感のある、この部屋は――――――――。


「ここ……ディスパラノイア街の中央にそびえ立つ、時計台なら」


ディスパラノイア街内なら、どの位置からでも時刻を確認できるほどの高さを誇る時計台。どこからでも時刻を確認できるということは、逆もしかり、どこでも見渡せるということなのだ。

戦争谷騒禍はそこに目をつけて、時計盤の裏、おそらく工事用に設けられたであろう小部屋に、身を潜めていた。


「あははははっ、うん、キレてるねー魚くん。まあ、こんなとこからじゃないと、街全体を見渡すなんて出来ないもん」
「……………」
「ここからなら、たとえどこで争いごとが起きても、あたしは見ることができるじゃない」


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