“溜息をついたら幸せが逃げる”と言うけれど、あんなのは嘘だ。“幸せが逃げているから溜息をつく”んだ。

“一人じゃ生きられない”なんて言うけれど、あんなのは嘘だ。一人で生きていける人間は、いる。ただ、幸せじゃないだけで。


俺は今まで一人で生きてきた。周り全てが余す所なく敵の、そんな暗くて冷たい《底》にいた。
一人ぼっちだった。
幸せじゃなかった。
溜息ばかりが出た。
だけど。
もう一人じゃない。
幸せかもしれない。
溜息なんて出ない。

無我夢中で手探りながら、俺は確かに逃げ出していた。
きっとみっともなかっただろう。
見苦しいことこの上ないだろう。
でもそんなことは知らない。
届かないと思っていたものは、もうとっくに手の平の中で俺が気付くのを待っていたんだ。

ごめん、遅れて。
やっとわかった。
さあ。
今すぐ《自由》になろうか。



*****



「あーあ。コリャ、もうどうなるかわかっちゃったなあ」


某所。
街全体を見渡せるであろう高さのそこから、ちゃちなスコープで展望する戦争谷騒禍の姿があった。

今まで広げていた機材の数々は、とっくにそこから運び出されてあるようで、少量の埃を被った木板の床が見えている。彼女は円状の青い絨毯に座り込んだまま、スコープから目を離した。


「もうちょっと引っ掻き回せると思ってたんだけど、案外大したことなかったな。ツマンナーイ」


脇にあるアイスボックスからキウイの缶ジュースを取り出す。


「どうやって開けよ……あたし缶切りの類も扱えないんだけど…………うーん、もったいないけど、いいや。ここの肥やしになれ」


がしゃーん、と平坦に呟いてアイスボックスを押し出した。中身のジュース類がガシャンと音を立てることはなく、また傾くこともなかった。

戦争谷騒禍はやれやれと肩を竦めて見せる。


「しかし、どうしよう。残ったのが鳥だけなんて。流石次期永世トップって言ってあげるべきなの? でもま、誘くんには悪いけど、かなりキビシーね」


彼女は外を見遣る。そこには、陽に煌めく青色のビルディングが、紛れるように存在していた。


「あはははははっ、雀と天子が切磋琢磨に殺られたのは意外だったけどねー。昔μtoで見たときよりも強くなってたし、ちょっとは楽しめたからいいけど」


愉快そうに肩を揺らしながら、でもー、と呟く。


「もう飽きたからいいや」


彼女は冷徹に吐き捨てた。
青いビルディングを不満げに見詰めている。


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