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 担任は、風紀委員や学級委員といったたいそうなお役目を持つ人にだけ招集の連絡を次々と行っている。先週から二年生に進級し、まだ新年度という爽やかな意気込みを持った追い風が止まないこの時期。つまらない担任の話を教室にいる者たちの半分ほどは背筋を伸ばして聞いていた。残りの半分は、すでに意気込みとかやる気とかそういう類は桜とともに散ったのだろう。姿勢を楽にして、話を聞き流していた。
 ブン太は後者だ。机の下で携帯電話のゲームに興じている、成績不振で進級が危ういと囁かれていたあいつほど図太くはないが、国語係なんてあってもなくても変わらないような役割の自分にお声がかかるわけないと、右手の親指の爪と指の境目にある薄皮をこそぎ落として暇を潰していた、
 短く切ってある人差し指の爪ではどうにもうまいこと薄皮は取れてくれなかった。的が外れて、ささくれができ、白かったところが薄桃に色づいた。あと一度そこをひっかいて、色が赤くなるか薄桃のままか。どちらに賭けるか考えているときだった。
「いっ!」
 ガタンと身体が揺れた直後、親指の先に痛みが走った。見れば、人差し指の爪がざくりとささくれをひん剥いていた。親指の爪の付け根に沿って、血が伝っていた。目先の出来事にブン太の口は苦々しく歪んだ。
 なんでこんなことになっちまったんだ。
 ブン太は親指の血を吸いながら、横目でこんな痛い目に合わせてくれた隣の人物を見た。隣の女子は、さっきのブン太と同じように下をじっと見ていた。ただ彼と違うのはその視線の先は膝の上にある文庫本にあった。
  隣の女子、ブン太の記憶が正しければ泉という名前の人物は、ブン太の抗議の視線を流している髪の毛で遮って黙々と文庫を読んでいた。次のページをめくるのと一緒にブン太に向けている方の横顔にかかる髪を耳にかけた。その髪の房が窓からの日光を受けて輝き、光がつるりと流れていく。
「丸井、何指加えてんだよ。先生に指されてるぞ。」
 再び、机がさっきと同じように揺れた。ブン太は反射的に口から指を離して、前に向き直った。前の席の男がブン太の机に手を置いてこちらを振り返っていた。
 自分の手がこんなになってしまったのは、どうやらこいつのせいらしい。
 ブン太は相手を睨み無言でそいつに尋ねるが、ブン太に親切で声をかけてやっているとしか考えていない相手は鈍感で、そんなことに気づきはしない。早く、とブン太と担任の間を目で行ったり来たりして急かすだけだった。
「丸井さん」
 担任はブン太を呼び、首を伸ばして彼を探した。顔を覚えたといっていたものの、つい先日席替えをしたばかりで自分の生徒の座席までは把握していないらしい。丸井さんは欠席じゃなかった。どこだったかしら。ぶつぶつ呟く担任にブン太は椅子から立ち上がった。
「ここっす。」
「あーそこだったの。」
   ブン太を見つけて、担任は手元の書類を見て微笑んだ。
「丸井さん、今日お誕生日です。クラスで一番誕生日が早いのよね。おめでとう。」
 担任が手を叩くと、それに合わせて生徒の方も拍手を打った。ブン太は神妙な面持ちでこの思わぬ祝福を受け取った。送ってくれる方も、祝ってくれているのかそうでないのかよくわからないあいまいな顔つきだ。
 方々に顔を向け頭だけ下げていると、さっき自分の机を叩いたのではと疑った泉の姿がブン太の目に入った。彼女は膝の上の文庫に夢中でブン太に一瞥だってくれない。皆が叩いているからと顔は文庫に向けたまま打つ、力の抜けた彼女の拍手に、誕生日なんてそんなものとブン太は言われているような気がした。


  
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