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 足首から先がない死体との再会は、先生の目を盗んで調査をし始めてから三日と経たないうちに果たされた。
 死体袋を開けて切り取られてしまった男の二つの足が袋の中でゴロリと転がっているのを見つけた時、私は思わぬ幸福にマスクの下で口角が上がるのを堪えるのに苦労した。その日、午後の途中から先生は研究室の外で用事があり、先生が出ていけばやるべき仕事さえこなしてしまえば問題の死体について存分に調べるだけの時間があったのだ。先生のいない間に一人で検死することは出来なくても、時間をかけて論文を探したりすることはできるだろう。
 この検死中にも足のない死体について「マキマ」以外に手がかりを得られることができるかもしれない。私は期待を抱きながら先生が作業を進めていくのを見守っていた。
 待ち望んでいた瞬間は私が想像してい流よりもずっと早く、検死を始めてから三十分も経たないうちに起きた。
 失血死の原因である足首の切断面を先生が確認している時だった。中肉中背の男の口からまた声がした。その声を聞いた瞬間私はあらかじめ男の枕元に置いていたボイスレコーダーを手に取った。
「オイ、なにをやってるんだ。足のところ観ている途中だろ」
 作業の手を止めてしまったことに先生から咎める声が飛んできたが、今はそれどころではない。私はあの声を聞こうとテープを巻き戻した。ちょうどいいところまでテープを戻すことができなくて、何度も巻き戻しと早送りを繰り返す羽目になってからようやく「マキマ」とつい先程聞いた男の声が全く同じように流れる時には、私は自分の脈が自分でも聞こえるほど気持ちが高揚していた。
「また、マキマですよ。先生も聞こえましたよね」
 読んだことのある文献にもなければ、世界中の論文にも後にも先にもないだろうケースを目の前に興奮する私とは裏腹に先生の目はいつもの通り魚を前にする寿司職人と同じくらい、泥のように静かだった。
「前にも言ったはずだ。声なんて聞こえていない。忘れろ」
「見過ごせません」
「ガキじゃあるまいし。私に何度も同じことを言わせるな。忘れろ」
「できません。ここにきちんと記録されていルのに、無かったことにできるわけがないでしょう」
 私はレコーダーを先生に見せつけるように掲げた。


  
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