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殻の盟約 1



※原作を大きく逸脱した設定があります。ご了承ください


 豊穣と実りをもたらす深いウェブリン王国の自然は、季節が冬になると一変して人々に沈黙と冷たさをもたらした。
 叩きつけてくるような猛吹雪は隣接する国との間に聳(そび)え立つ大きな壁となり、何人たりとも侵入を許さなかった。そして、凍てつくような厳しさは国外だけでなくその地で暮らしを営む民にも容赦なく襲いかかる。ありとあらゆるものを白に染め上げる大雪は人々から足を奪い、ロクな身動きをとれないようにした。天が起こすことに太刀打ちする術を持たない国民は自分たちの家にこもって、自分たちの蓄えをすこしずつ食べながら春を待つしかなかった。
 ありとあらゆるものが動きをとめるこの季節に手も足も出ないのは、王国の心臓でもあるウェブリン城も同じであった。
 雪が溶けて、地面に眠っていた緑が一斉に芽吹く春の訪れが来るその時まで。王族は暖炉の火にあたって、すり減るような冬の時を耐えていくのだ。
 だが、遊び盛りの子供達からしたら、いつ終わるかわからない冬の間、ひと時だってじっとしてなどいられなかった。遊び場である庭を駆けることが出来ないならば、雪風にあたらない城内を大人の制止を振り払って駆けまわった。
 城の敷地内のすみっこ。そこに押しやられたように建てられた小さな屋敷。そこに国王の妾である母親と双子の兄のメヨーヨと一緒に暮らしている幼い猫種(キャッシー)オージェだって、その例外ではなかった。
 メヨーヨと二人きりのゲーム。今日はかくれんぼだ。
 ちっぽけな屋敷の部屋は、王が暮らす城と違って手と足の指の数よりも少ない。それに生まれてからずっと暮らしているのだ。隠れる場所は限られているし、お互いに把握してしまっている。
 双子のかくれんぼは隠れる役ははじめから負けが決まっているも同然だった。
 それでもメヨーヨに勝って驚かせてあげたい。
 隠れる役に回ったオージェは負けん気半分いたずら心半分の気持ちで、入ることを禁じられているリネン室を隠れる場所に決めた。
 この屋敷に暮らす人がみんな一斉に使ったとしても足りなくなることなんてないくらいたくさんのシーツとタオルが棚にギュウギュウに押し込められているだけの部屋。使用人の部屋にもある暖炉はないし、燭台にはロウソクだって刺さっていないせいで、外にいるのかと勘違いしてしまいそうなほど寒い。ぱちぱちと火が爆ぜる音が聞こえるくらい暖炉のそばにいるときと同じような格好をしていたオージェの身体はブルブルと震えた。
 オージェは棚と壁の間にできた隙間に身体を入れるようにして身を隠した。
 じっとしていたら、凍ってしまいそうだ。寒さから逃れようと棚からシーツを一枚引っ張り出してそれに包まったが、薄いだけで少しもこの寒さを凌いではくれなかった。それでもオージェは兄が驚く顔を見るために、シーツを強く握って耐えていた。
 指先が冷たくなって自由に動かすのが難しくなりだした頃。ようやく遠くから「オージェ」と自分を呼ぶメヨーヨの声が聞こえてきた。オージェは扉から顔だしてしまいたくなるのを押さえつけるようにぎゅっと身体を小さくして気配を殺した。
 従者しか出入りしないこのあたりは廊下にまで絨毯が敷かれておらず、小走りでオージェを探すメヨーヨの足音がよく聞こえた。足音からするにメヨーヨはオージェが隠れているリネン室とは離れていこうとしているようだった。
 この調子ではメヨーヨは僕を探すために屋敷中を探す羽目になってしまうだろう。
 自分の描いたシナリオの通りに進んでいくことにオージェは口を手で押さえて、笑った。
 手から漏れた息が曇ってすぐに空気に溶けて見えなくなってしまったその時だった。
 息を潜めて笑ったオージェの声よりも微かなくしゃみの音。カツンと何かがぶつかって二度ほど跳ねて転がる音がオージェに近づいてきた。
 足元に目をやると、床に一粒の飴玉が転がっていた。菫色の飴玉はオージェにも見覚えがあった。オージェたちの母親が「母さましか知らないひみつのばしょ」に隠しているとっておきの飴玉だ。
 僕が二回しか食べたことがない飴玉がどうしてこんなところに。
 オージェは飴玉を拾って、それ転がってきた方を見ようとしたが、それはできなかった。オージェがいるのは無人のリネン室の壁と大きな棚の間にできた自分がやっと入れるだけの隙間だ。
飴玉が来た方向はオージェが隠れていた隙間の背後だ。
 おばけ
 オージェがとっさに思い浮かんだのは、にわかに信じがたい存在のことだった。
 ウェブリンの王国を守るために命を落としてしまった兵士の霊。約束事をやぶって城を追われてしまったメイドの霊。仲間を探し雪山を延々と彷徨う狼種の亡霊。ウェブリンにそのような類の話は決まって冬に起きていた。
 得体の知れないものがすぐそこにいる恐怖が、オージェの耳をそっと指先でなぞる。オージェは首を縮こませた。
 逃げよう。
 怖さに耐えられなくなったオージェは立ち上がろうとしたその時、またもう一度誰もいないはずの背後から床を何かが引っ掻きながらオージェの方へと近づいた。今度こそオージェは総毛立つような感覚に恐怖をまじまじと感じた。
「それ僕の!!」
「へ?」
 飴玉と同じようにオージェの股の下を抜けて現れたのは一匹の小さなネズミだった。ネズミはオージェの足に縋り付いて、飴玉に向かって精一杯に身体を伸ばしてわめき立てた。
「僕の飴玉だよ。返してよ。返してってば!」
 思いもよらないちっぽけなモノの登場にオージェは拍子抜けしてしまったが、次第にそんなモノにわずかな間とはいえ今までにない怖い思いをさせられたことへの悔しさがむくむくと湧き上がっていた。
「この飴、君の?」
「うん」
「そうなんだ。取っちゃって、ごめんね。返すよ」
 オージェは飴玉を小ネズミに差し出してやった。
「オージェさま、ありがとう」
 お礼もそこそこに子ネズミは自分の頭より一回りも大きい飴玉を受け取ると、またいつ飴玉を落とすに違いない覚束ない足取りで元きた道へ戻ろうとした。オージェは子ネズミが自分の股の下を潜ろうとする寸前に自分の手で子ネズミの行く手を阻んだ。
「え、えーと」
 オージェの意地悪に、子ネズミはすぐに方向を変えて歩き出した。オージェはまた手でそれを塞いだ。それを二度三度と繰り返すと、子ネズミはようやくオージェのやらんとしていることに気がついたようだ。飴玉を抱え直してオージェを見上げた。小さくて真っ黒な目には涙がたまっていて、今にも一粒こぼれてしまいそうだ。オージェの顔を見てヒイと上げた声には怯えがこもっていて、自分の影の下で震える子ネズミがオージェには面白くて仕方がなかった。
「僕父さんのところ早くもどらなくちゃいけなくって」
「いいじゃん。せっかく会ったんだよ?」
「でも、父さんが」
 子ネズミはオージェの後ろの方を気にしながら、困ったように鼻先の数本しかない髭を震わせた。オージェは子ネズミに笑顔を向け、子ネズミの髭の震えは止まらないどころか、よけいにひどくなっていった。
「なんでこんなところにいるの?」
「なんでって、僕はずっとここに住んでるし。あのう、ほんとうにいそいでて」
「急いでるって、君のお父さんのこと?大丈夫だよ。君のところにすぐきてくれるよ。これだって僕が持っておいてあげるよ」
「ああ!」
 オージェは大丈夫大丈夫と言い聞かせながら、子ネズミから飴玉を取り上げた。子ネズミは何か言いたそうにオージェになにか言いたげな顔をしているが、オージェは浮かべていた笑みをさらに深めてみせた。
「泣かないでよ。だから、重そうだから持ってあげるって言ってるだけだろ?」
「でも、でも、早く戻らないと」
「あーもう、キーキーうるさいなあ。僕の質問に答えたら、この飴も返してもらえるのわかってるんだったらさっさと答えろよ。
@どうして僕に会ったこともないお前が僕の名前を知ってるんだよ」
「だって、父さんもこのお家にいる人はみんな君のことを『オージェさま』って呼んでるから」
「ふーん。」
「ねえ、答えたからもういいでしょ?」
「まだだよ。お前、この家にいるって言っただろ。じゃあ、どこの家の子なんだよ?
僕だって、城にいる奴らの顔と名前ぐらいみんな知ってるんだ。でも、お前みたいな男か女かもわかんないちっぽけなヤツがいるなんて聞いたことないよ」
「どこの家の子って、この家だよ。僕は生まれてからずっとこのお家に父さんと暮らしてるんだ」
「ここは僕の屋敷なのに、よくそんなわかりやすい嘘つけるね。ちゃんと言いなよ」
「嘘ついてないよ。僕は本当にずっとここに住んでるんだ
父さんが待ってるんだ。だから、僕の飴玉返して」
 子ネズミはそう言って飴玉を受け取ろうと短いと両手を目一杯差し出したが、まだまだ気が収まらないオージェは子ネズミの手の届くか届かないかのギリギリのところを狙って飴玉をいたずらに踊らせた。飴玉の動きにつられて子ネズミは涙声で返して欲しいと訴えながら右往左往していくのは、なんとも滑稽だった。
「本当に本当に返して!」
「ダメだよ。まだ質問に答えてないじゃないか」
「でも、君何も聞いてこないのに」
「だって、考えてるところなんだもん。もうちょっと待っててよ」
「でも、でも……う、ウウ、ウエエーン」
「なんで泣くんだよ。ぼくは間違ってなんかないだろ」
「ウエーン、ウエーン」
「うるさいなあ」
 とうとうオージェの「お遊び」に耐えきれなくなって子ネズミが赤ん坊のように声を泣き出してしまった。その場に座り込んで小さい目から大きな涙の粒を3本しかない指で拭いながら泣く様は煩わしくって、そう大きくないはずなのに金属を引っ掻いたような高い声は耳に障って、苛々としてオージェの顔は自然と歪んだ。
「いっしょに遊ぼうとしただけなのに」
 おとなしいようなら尻尾を掴んでメヨーヨに見せて、一緒に遊ぼう。そこまでオージェは考えていたが、子ネズミの様子からしてそれはとうてい無理だろうとわかると、オージェの中から子ネズミへの興味は途端に失せてしまった。
「ほら、返すよ」
「ヒック、ヒック、ウウウ」
 オージェは指先でつまんでいた飴玉をわざと子ネズミの頭の上に落としてやった。飴玉は子ネズミの頭にぶつかって、彼のすぐ目の前に落ちた。だが、子ネズミは泣きじゃくったままでやっと自分のこと手元にある戻ってきた飴玉のことなんか知らんぷりだ。
「アーア。すぐ泣くなんて、遊ぶってことがわかんない奴ってつまんないだよね」
 オージェはわざとため息をついて悪態を一つついて、子ネズミの前を去ろうとしたその時だった。
「おーい、坊主」
 さっき子ネズミがやってきた方向から大人の男の声がオージェの耳に入ってきた。その声を聞いた途端、泣きっぱなしだった子ネズミがぴたりと鳴くのをやめて顔を上げて鼻をすすりながら、涙声で囁いた。
「父さん」
 声の正体が子ネズミの父親だとわかると、オージェは苦虫を噛んだような顔をした。泣いている人を見つけた大人がすることはみんな同じだ。泣いた方を大事にして、泣かせた方に「仲良くしなさい」と言葉を変えて何度も何度もうるさく言ってくるのだ。
 オージェは面倒なことになる前に逃げだそうとした。だが、それよりも早く父親のネズミが子ネズミのもとへ駆けつけてくるほうが早かった。
「坊主。こんなところにいたのか」
「父さん!」
「飴玉は父さんがとってきてやるからと言ったのに一人で行ってしまうんだから」
「でも、あれは僕がとった飴玉だから」
「わかったわかった。それで、どうしたんだい?こんなに泣いて」
「あのね、あのね、飴玉をあの子が」
「あの子って、オージェ様じゃないか。」
「あの、僕、しゃべるネズミに会うの初めてで、それで」
「オージェ様。申し訳ごさいません。私たちはこんな人目につくところから出てはならないと十分承知しているのですが、仕方がなかったのです」
「え、ちょっと」
「ほら、坊主も頭を下げろ」
 オージェが止める間もなく父ネズミは次々と詫びと言い訳の言葉を並べ立てて、まだ泣き終わっていない子ネズミを無理やり立たせて鼻先が床についてしまうほど頭を押さえ付けて謝罪の姿勢をとらせて。
「申し訳ございません。ですが、ぜひご理解していただきたいのです。私は妻に先立たれてたったひとりでこの子を育てなくてはならんのです。でも、今年の冬はいつにも増して厳しいでしょう。城でも食料の備蓄には骨を折ったという話を耳にしています。私一人では、自分とこの子が十分に冬を越せるだけの用意ができなかったのです。だから、こうして自分たちが食べるものを探して回っておったのです。どうかどうか、許していただけませんでしょうか?」
「えーと」
 てっきり怒られると思っていたオージェは、どうしていいかわからずいつもならスルスルとでてくるはずの言葉も、なんといえばよいのかわからずピタリと止まってしまっていた。オージェは子ネズミから飴玉を取り上げて遊んでいたのだ。大人に見つかれば怒られてしまうのが当たり前のことだった。けれども、どういうわけか子ネズミの父親はオージェを怒らない。それどころか、子ネズミの方にオージェへ謝れと叱っているのだ。
 なんて都合がいいのだろう。
 そう気がつくと、オージェはフワリと微笑んでいた。
「いえいえ、僕も兄さんとかくれんぼをしていて、本当は入っちゃいけない場所にこうして隠れているんです。それをナイショにしてくれたら、誰かに言ったりなんてしません」
 オージェがそう言うと、父ネズミは胸をなでおろした。
「オージェさま、ありがとうございます。オージェさまがやさしいお方なのですね」
「そんな僕はまだまだ未熟者です。そうだ、僕ビスケットを持っているんです。良かったらもらってください」
 オージェはポケットに入れたままにしていた食べかけのビスケットを親子に差し出した。包み紙を解いて、バターと小麦粉のにおいがかすかに広がると父親は目を輝かせて、子ネズミのほうは今にもかじりついてしまいそうな勢いでビスケットに言葉の通りとびついた。
「そんなよろしいのですか?」
「今日のことを秘密にしてくれるお礼ですよ。ねえ?」
「ああ、ありがとうございます。このご恩は忘れません。ほら、坊主お礼を言いなさい」
「あ、ありがとう」
「こういう時はありがとうございます。と言うんだ。オージェさまは偉いんだから」
「そう、そうなの」
 星を見るような、崇める眼差しにオージェはなんだか自分の丈に合わない服を着せられた時のようなくすぐったい気持ちになったがそれを悟られないように微笑み返した。すると、子ネズミの目はさらに瞬いた。
「さっきは泣かせるようなことをしちゃってごめんね。でも、また会えたら今度は僕の兄さんとも遊ぼうよ。きっと、たのしいよ」
「本当に!」
「こら!!」
「では、私どもはこれで。オージェさま本当にありがとうございました。このご恩私一生忘れません」
「あ、待って」
「どうかしましたか」
「名前を教えてよ。なんて呼べばいいの?」
 オージェが問うと、父ネズミは子ネズミと顔を見合わせてからオージェを見、力なく笑った。
「鼠種(ラート)は名前を持ってはいけない。そういう決まりじゃないですか」
「え?」
 どういうこと?と尋ねる前に親子はリネン室の影の中へ消えていってしまった。


 チューチューチュー。ネズミは鳴きました。
 ネズミがそういうものだとオージェが知ったのは、うんと小さい頃にベッドの中で読み聞かせてもらった童話からだった。うそばかりの昔話でも蝶や花は言葉を話して歌さえうたってみせるが、ネズミだけは花蜜を吸うような声しか出さず言葉を知らないのだ。
 けれども、今日リネン室で会ったネズミの親子はちゃんと言葉を話し、オージェのことを「オージェさま」と呼んだのだ。
 しゃべるネズミが本当にいるなんて!
 だれもが驚くに違いない大発見したオージェはこの発見をかくれんぼで自分を結局見つけることができなかったメヨーヨにすぐには教えなかった。大事に大事にあたためて、母親が寝かしつけてくれるベッドの上でそっと教えてあげることにしたのだ。
「母さま、僕今日すごいもの見たんだよ」
「オージェ、聞いてないぞ」
「今、話すんだもん。兄さんは知らないに決まってるよ」
 その日の夜、オージェはメヨーヨと同じベッドに入って、母親が冷たい空気が布団の中には入り込まないようにしてくれたのを確認してから口を開いた。「すごいものを見つけた」と聞いてメヨーヨはオージェが思っていた通り、不満でムウと頬を膨らませてオージェのパジャマの裾をつかんできた。
「この屋敷で見つけたの?」
「そうだよ」
「ずっと住んでるお家に新しいものなんてあったかしら?」
「はやくおしえて」
 ロウソク一本の薄ぼんやりとした明かりしかない暗い部屋でも、話の続きをねだるメヨーヨと母親の瞳は期待で宝石のように綺麗に光っていた。この事を話してあげたら二人はたくさん喜んでくれるに違いない。そう思うと、オージェの胸は自然と高鳴った。 
「すごいよ。メヨーヨとかくれんぼしてるときにね、しゃべるネズミに会ったんだ」
 大発見を教えてあげて「すごい!」と声をあげてくれたのはメヨーヨだった。
「僕見てない。ねえ、どこで見つけたの?」
「シーツのお部屋。あそこに隠れてるときにね、小さい隙間から出てきたんだよ。飴玉持ってて。僕のことも知ってたんだよ」
「いいなあ。僕も見たい」
「じゃあ、明日一緒に探そうよ。食べる物がないって言ってたから、なにかあげれば出てくるよ」
「うん。なに食べるかな」
「やめなさい」
 二人で嬉々として計画を立てていると、母親の声が水をさす打つようにピシャリを遮った。
「ネズミを探しちゃダメなの」
「いけないに決まってるでしょう」
「どうして?だって、食べる物もなくて困ってるって言ってたんだよ」
「ネズミがしゃべるわけないでしょう」
「オージェ、嘘ついたの?」
「嘘じゃないよ。ちゃんと会ったよ。お父さんと子供だって」
「ネズミを探すのはやめなさい」
「だって」
 言葉をつづけようとしたところで、オージェと怖い顔と重たい声で制された。
「母さまに口答えするのはやめなさいといつも言ってるでしょう。
それに、シーツのお部屋に入ってはいけませんと何度も教えたじゃない。今日だって、わたしがあなたたちがリネン室に入ったせいでシーツが崩れたなんてメルヴェに文句を言われたのよ」
「でも、ネズミはちゃんと話してたし、お父さんの方は……」
「頭の小さいネズミが言葉を話していいなんてことはないのよ」
「覚えておきなさい。鼠種はチューチューとしか鳴かないと決まっているのよ」


  
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