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 浴室のドアを開けた瞬間、顔にぶつかってきた熱気に私は思わず顔をしかめた。招いた覚えのない客が勝手にシャワーを使ったらしい。他に異常はないか見回したが特に変わったことはなかったが昨日の朝に洗って干したままの下着が物干しにぶら下がっているのを見つけて、もしかしなくても下着を見られているという事実に私の二日酔いの頭痛はさらに重たくなった。
 シャワーを浴びながら、私はどうにかして観音坂さんとは何も無かった道筋を見出そうとした。
 こうしよう。酔っ払ったのは私だけじゃなくて観音坂さんもだった。彼は酔い過ぎたあまりにお人好しを炸裂させ、私を部屋に送り届けたあと靴も脱がずに私の部屋の玄関で力尽きたのだ。朝起きたら私の着ているものが下着だけになっていたのは、酔っ払った私が快適な睡眠を得ようと働かない頭で必死に行動した結果に過ぎない。私と観音坂さんが同じベッドで一晩を過ごしてないのだ。そういうことなら、観音坂さんが土曜日の朝になっても私と顔を合わせているのも仕方がない。もう電車が動いているのだから、送り届けてくれた御礼を言ってさっさと私の部屋から追い出せばいい。
 私は自分でなんとか導き出した答えに自分で納得しようとしながら、昨晩から落とせていない化粧を落とすためにボトルからクレンジングオイルを手の平の上に出した。オイルが濡れた手に触れたそばから乳化してメイクを落とせない状態にしてしまって、自分が犯した失敗にため息をついた。
 はじめからなにもかも間違っていたのだ。
 観音坂さんとは一夜を過ごしたがなにもなかったなんて都合のいいように現実はできていない。
 なにをするにも一々こちらの様子をビクビク気にしていたあの観音坂さんが一夜にして起きたばかりの女に馴れ馴れしく髪を撫でてくるようになっていたのだ。昨夜の間に私と観音坂さんでセックスをした以外にあるはずがない。
 飲みすぎて記憶を飛ばした夜。脱ぎ散らかして下着姿の自分。昨晩と同じ格好をしている会社の先輩。わかっている事実を点と点にして、それを繋ぐように引いていけば考えなくとも昨晩のうちに自分の部屋に帰り、久しぶりに良質な睡眠をとれた謎が解けてしまう。これ以上現実なんて見たくない。
 私は白濁したクレンジングオイルを水で流してから、洗顔料を手に取って普段の倍以上に泡を作ってそこに顔を埋めて、化粧はこれできれいに落ちたこととした。


  
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