×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


9



 無意味なお菓子が止み、止まなくても高級ディナーが待っている。
 失敗する要素なんてどこにもなく、私にとってプラスになることしか起こりえない。ブリリアントな作戦を友人から授かった私は早く試してみたくてウズウズしていた。定時がすぎた頃には、観音坂さんが帰ってくるまでにまだ一時間はあるというのにドアが開く音がする度に入口を見て観音坂さんであるかどうかを確認して、それが外回りを終えたオジサン社員だったり同僚であったりするたび、ため息をついて進みが悪い自分の仕事をさらに遅くさせていた。
 結局観音坂さんがオフィスに帰ってきたのは、ほぼいつも通り午後七時を迎える手前だった。私は営業の仕事で疲れた様子で(髪の毛が膨らんで目があるのかも分からなくなってる)様子の観音坂さんを「ちょっと」と理由になってない理由で誰もいない場所、もはやお約束となりつつある自動販売機のスペースへ連れ出した。
 観音坂さんは私から目に見えて視線をそらすことはしないものの、会社支給の携帯のプラスチックの肌をなでていて、気まずそうにしていた。きっと私が昼に問い詰めてしまったからだろう。
 おねだりの前に、話を聞いてもらえるようにしなくては。
 観音坂さんが電話に出る振りをしてまた逃げてしまう前に私は手を顔の前に合わせた。
「観音坂さん。さっきはすみませんでしたっ!」
 神様でも拝むように勢いよく頭を下げると「ええっ」と観音坂さんはひどく驚いたような声をあげた。
「すみません!泉さん、頭をあげてください。俺なんかに泉さんが謝ることなんてなにもないですよ」
「でも私お昼に観音坂さんにきつく当たってしまったじゃないですか」
「そんな、もう気にしてないから、顔を」
「だって、私会社の先輩にあんなことをしてしまったなんて」
 怖くて、頭なんてあげられませ〜〜〜ん!
 私がさらに頭を下げると、観音坂さんはさらにうろたえたが、私はなんと言われようと膝がつきそうなくらい下げた頭をあげなかった。しばらくしないうちに観音坂さんは自分の首を締めるように右手を首に添えた。私はこうなるのを待っていたのだ。
 人間観察と称した人の粗探しが趣味というこれ以上ない性格の悪さが滲み出ている女傑から聞いた話によると、これは観音坂さんが未達成の売り上げについて詰問されているなど精神的に追い詰められている時によくやる特有のポーズらしかった。さらに追い詰められると観音坂さんは「申し訳ありません」としか言わないテープレコーダーになるか自分の精神世界に閉じこもって独り言を延々と続けてしまうらしいが、ただおねだりをするのにそこまでする必要はないので観音坂さんがもう逃げ出さない程度の主導権を握れたことがわかると私は下げ続けていた頭をあげた。


  
INDEX