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 今週の土曜日の午後、夏の全国大会の打ち上げで、みんなにケーキを振る舞う。
 そうすると決めてからのブン太は、今回の打ち上げの開催を決めた幸村に負けない嵐のような勢いで、ケーキ制作の準備を進めていった。
 打ち上げの開催が決まった翌日の木曜日の朝の時点でブン太はどのようなケーキを作るのかを決めたらしく、学校の帰りに、妙に張り切っていた幸村のスパルタの練習を乗り切ってヘトヘトになった自分の身体に鞭打って、荷物持ちとしてジャッカルを引っ張ってスーパーで材料の調達をそろえた。金曜日には、おいしく食べられるようにとケーキのスポンジを焼き、少しでも早く完成させられるようにとトッピングとなるフルーツの下ごしらえをすませた。そして、打ち上げの当日の朝、それも朝練のある平日よりも三十分も早い時間にブン太は普段のテニスバッグに加えて、紙袋とクーラーボックスという大荷物を抱えた万全を期した状態でジャッカルを待ち構えていたのである。
「オーッス!」
「ああ、はよ。」
「悪いな。ケーキ作るせいで家出るの早くなっちまってよ。」
「いいよ、お前一人でケーキ作るの大変だろ。」
 そう言いながら、ジャッカルが右目に涙がにじませるほどのでかいあくびをすると、ブン太は「ねむそー」とこぼしながら、自分が持っていたクーラーボックスをジャッカルの手元まで持ってきた。ジャッカルはなにも言わずにそれを受け取り、ボックスの肩ひもを自分の左肩にかけた。ボックスの中にはその大きさに似合わず相当な量が入っているらしく、ジャッカルの左肩に肩ひもが強く食い込んだ。
「これ、めちゃくちゃ重いんだけど。なに入ってんだよ。」
 予想外の重さと痛みにジャッカルが訊くと、丸井は少し考える顔をしてからそれに答えた。
「冷えてた方がいいもんだから、フルーツとかクリームとか、チョコにまんじゅう、クッキー、とにかくトッピングに使うのだな。あと、他にもあった方がいいなって思ってついでにチョコプリンとかも入ってる。」
「プリンまで作ったのか。」
「まあな。言っておくけど、プリンも本当にウマいぜ。弟たちにも好評だったからな。」
「お前、みんなと食べるものを先に食べたのかよ。」
 親指を立て、得意満面なブン太に、ジャッカルはため息をついた。ブン太の食い意地の凄まじさは、長年の友人であるジャッカルはもちろん承知だが、今日の会に出すものにまで手を付けていたとなると、さすがに呆れが口からこぼれた。ブン太は、冷めた視線をくれてくるジャッカルにひょうひょうと言い訳をした。
「味見だよ。味見。みんなにマズいもん出したら、悪いだろ。」
「まあ、マズいものは出せねえよな。」
 味見の一言に、ジャッカルは考え込むように短くうなった。ブン太はにやりと笑って、ポケットからガムを取り出すと自分の口へと入れた。
「だろい?ケーキもちゃんとウマいのにしなきゃな。」
 まだ納得し切っていないジャッカルから小言が飛んでこないようにと、ブン太は強引にこの話題を切り上げた。しかし、ブン太の口元から広がる人工的な青リンゴの香りのおかげで目を覚まし、頭がしっかり回るようになったジャッカルはブン太にきっちりと釘を刺した。
「ケーキのクリームは舐めすぎんなよ。」
「そこまで、やらねえよ!」


  
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