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CARYY A CAKE 1



「遅くなったけど、全国大会の打ち上げやりたいよね。」
 そう言ったのは、壁際にあるホワイトボードにマグネットで貼り付けられた予定表を眺める幸村だった。
 残暑の中での厳しい練習を終えて、その熱気と土とそれを無理矢理なかったことにしようとする制汗剤のにおいが混ざった部室の中での幸村のふとした呟き。立海大学付属中学校男子テニス部レギュラーの面々は一斉に着替えの手を止めた。ある者はワイシャツのボタンに手をかけたまま。ある者は、手にしている制汗スプレーのほとんど空になっている中身を意地でも出そうと腰を入れて、カラカラと缶から虚しい音を鳴らすのを中途半端に止めて。ジャッカルもその例に漏れず、ズボンのベルトを手を握りしめたまま、幸村が指差すホワイトボードの予定表の一枠に注目した。
 その枠には「九時〜十二時練習」と記されていた。
「この日とかどう?と言っても、近くのスーパーでお菓子とジュース買って、乾杯するだけなんだけど。俺たちって、あまりそういうことしたことなかっただろう。このメンバーで集まれることなんてもうそんなに無いだろうし、いい機会だと思わないかい?」
 突然の提案に、皆は一度唸った。幸村が指定した日は今週の土曜日。半日とはいえ数週間ぶりに、土日に与えられた休暇だった。これといった用事が特になかったジャッカルは、誰か一人でも幸村の提案に賛成するならば自分もそれに乗ろうと静かに周りの顔色を伺った。
「いいね。幸村くん、やろうぜ!」
 一同が静まりかえる中、口火を切ったのは、ジャッカルの隣にいた丸井だった。
 一人が言うとあとは早かった。異口同音に次々と賛成を唱え、満場一致となるや否や、提案者の幸村が流れるように当日の段取りを決めて、楽しみだなあとやけに感慨深く呟いて、終了。その後は、皆途中だった着替えを済ませてそれぞれの家路についた。
 家が近いもの同士のジャッカルと丸井は、いつも通り二人一緒に、だいぶ数の減ってきた蝉の音を背景に自分たちの家へと向かっていた。この時間は空腹と練習の疲れで口数の少ないのが常だったが、急遽決まった先のイベントのことで丸井の口はよく動いた。とは言ってもイベントの内容も内容なので、話題は丸井の好きな食べ物の話から離れることは無い。あれが食べたいけど、八人という大人数で食べるには数が少ない割に値段が高い。チョコレートだったら、あれとそれどちらがいいか。いや、どちらも食べたい。丸井は次から次とお菓子の名前を口にし、どうだろうかとジャッカルに訊ねた。ジャッカルも律儀にそれについて良いと言ったり、あまり好きじゃないと返した。
 お菓子の話題もそろそろ尽きそうな頃、桑原の頭にふと疑問が浮かんだ。
「そういえばさ、前にテニス部のみんなで遊んだりしたのっていつだったっけ?こんなことするの結構久しぶりだろ。」
「五月とかそこらじゃなかったか。一緒にボウリングしたの。」
「そっか、そんなに前だったんだな。」
「仁王や赤也とかと三人か四人でっていうのは何回かあったけど、皆となると予定合わなくて、揃わなかったんだよな。」
 ジャッカルがそう言うと、丸井は何かに気づいたようで、あっと声を上げた。
「ていうことはよ、幸村くん混ざって皆でなんか遊んだことはなかったってことだよな。」
 丸井の一言にジャッカルは記憶を辿った。言われてみればその通り、幸村を入れて部活のない時に皆で何かしたということはなかった。
「無いな。入院してたし。」
「そうだよな!」
 ジャッカルから確証が取れると、丸井は目を輝かせた。ジャッカルは、丸井がこの瞬間何かとびきりいいことを思いついたとすぐにわかった。
「何すんの?」
「俺、とびっきりうまいケーキ作る!」


  
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