べた、どろり。
左手は真っ黒になり、確認は不可能だ。右手とつま先も同じようにゆっくりと沈み込む。ずぶり、ずぶり、ゆっくりと。
恐怖はない。むしろその温さが心地好い。身体を纏わり付く感覚が肌を、脳を刺激する。堪らない。鈍い痛みが首の周りや脚の付け根を走る。
ずっとここにいたい。でも駄目だ。
脳の片隅で警鐘が鳴り響く。
刮目し、現状を見据えろ。おかしい事に気付け。お前は何をしている。お前は何をさせられてる。お前の両手は何色だ。お前の背中を推すのは本当にお前が正しいと信じる者か。

「鬼道!」

ずるりと、俺の身体は引きずり出された。





ありがとう、円堂。
111023