ぐすっ
更衣室の扉の向こう側で、神童が泣いている。部活終了から三十分後。恐らく習慣化してしまったのだろうか、毎回決まって誰もいない空間で自らを女々しいだの情けないだの無力だの責めて歎いて涙を流すのだろう。
扉の手前で俺はただその嗚咽を聞く。助けにいくのはきっとあの幼なじみの役目だろう(ただ、それをあいつに言ったら殴られそうだが)。だから臆病者の俺は偶然を装い、さもお前が泣いていたなんて知らなかったとばかりに振る舞い、話を聞き、ほんの少しばかり彼の背負った重みを共有すべく、部活前に予めロッカーにタオルを仕込んでおいた。俺は扉に手をかける。だが扉はびくともせず、力んだ俺は少しよろめいた。錠前か神童か、意識的にか無意識かはわからなかったが、とりあえず拒絶の意を受けとった。神童はまた明日からひっそりと孤独の内に涙を流し、俺は扉の向こうで人知れずお前の嗚咽を聞くのだ。
勿論互いに、一人で、だ。







title:白々
110618