誕生日。扉を開けると俺の恋人こと鬼道が真っ赤な薔薇と六つのゼロが並ぶ値段のするワインを持ってマンションの玄関の前に立っていた。胸の中がずわぁと熱くなる。思わず抱きしめたくなる衝動をなんとか押し込めて鬼道を招き入れた。昔に比べて随分自制出来るようになったのだと自負している。鬼道は綺麗に靴を履き揃えて上がった。昔から几帳面で礼儀正しいのは変わっていなかった。
「久しぶりだな」
「あぁ、半年は会ってないな」
会おうにも予定が互いに仕事の都合が噛み合わなかった。特に鬼道は財閥に入り、鬼道として本格的に仕事を始めてから息のつく暇も無いほど忙しくなった。だが互いにもともと派手な恋愛は好んでなかったし、少なくとも俺は会えなくても鬼道さえ俺のことを好きでいてくれるのならいくらでも待てるたちになったので、最早遠距離恋愛はさして苦労ではなくなった。
「お前の誕生日だけは絶対に予定が入らないように半年前からセッティングしたんだ」
そのせいで三日寝てない、と鬼道は笑いながらワインのコルクを抜いた。
「さぁ、飲む、か…佐久間」
「ん、どうした」
「なみだ」
「は?」
ぺろり。鬼道は俺の頬を舌でなぞった。無意識のうちに流れ出す涙を見て鬼道は申しなさ気に呟いた。
「ありがとう、すまない佐久間」
微笑する鬼道は俺の背中に腕を回した。
「鬼道、それは俺の台詞だ」
俺こそありがとう。そう言うと、鬼道の腕が緩んだ。
「明日と明後日まで休みをとった。今夜は飲むぞ」
鬼道はワイングラスにボトルを傾けた。赤ワインが鬼道の目みたいでちょっとドキドキした。

「さきゅまらいふきぃ」
すっかり忘れていた。鬼道は酒に弱いんだ。ボトルを遠退けると床に寝そばりながら鬼道は腕をばたつかせて言った。
「さきゅま、もういっぱぁい」
「ダメだ鬼道、これ以上飲んだら吐くぞ」
「うっしゃいさきゅまおまえはいつからそんなくちをきくようになった、そんなこにそだてたおぼえはありましぇえん」
あぁ、鬼道。徹夜で疲れてるのか知らないけど一応今日は俺の誕生日で、てっきりしっとり大人なムードを期待していたんだが現実そうはいかなかったようだ。まぁ可愛らしい恋人はいつ見ても愛おしいけどね。
「うぅ〜、さきゅまぁ」
「はいはい」
抱きしめると鬼道は嬉しそうに目を細めて笑った。
昔に比べて自制が利くようになったと思ってたがそんなことは微塵も無かったようだ。頬を染めて甘える恋人を前に俺の理性の箍は余りにも容易に外れたのだった。






明日も明後日も休みをとった理由は使えるとか思った俺はやっぱり昔と変わらないようだ。
110503