先ずは生卵から始まる。殻は雑菌が付着していて汚いので、予め割ったものを専用の小さなグラス型の器に入れる。アフロディは普段そのまま飲むが、稀に気まぐれで蜂蜜やら醤油やらバルサミコ酢やらを数滴加えたりもする。アフロディは器をとり、ごくりと卵を飲み干した。軟質の球体の黄身が喉を容赦なく押し広げて下る感覚が堪らないとアフロディは言った。
二番目はサラダだ。ポリバケツの蓋をひっくり返したような大きな皿に、全て名前をあげたらそれだけで朝食の時間が終わりそうな程の多種多彩な野菜がふんだんに、そして乱雑に刻まれ盛られている。アフロディはそこに瓶を逆さにして気が済むまでオリーブオイルをかけ、一握り(何分量が多いので)の粗塩とありったけのお酢とレモンの搾り汁をかけてこれまた乱雑に和えた。こんなにたくさんのサラダを一人で完食出来るのかと尋ねると、僕を何だと思ってるのさと答えたアフロディは既に半分を腹に収めていた。
三番目はスープだが、これは実を言うと俺の無着手だから材料は全く解らない。何せ野菜すら浮いていない(煮込んで溶けたのかもしれないが)ので知る由もない。ただ食欲をそそられる匂いがするので恐らく肉か何かがメインのスープなのだろう。アフロディは大きな球体の銀製スプーンに包まれたスープをゆっくり、だが一息で飲み干した。舌なめずりをしたアフロディは満足そうに俺に微笑みかけた。
「さぁ、メインディッシュにしようか」





title:彼女
110530