もしこれが恋ならこんなに醜い感情を遺していくはずがない。俺の知ってる恋は、終わっても綺麗な思い出として結晶化するのに。ソレは違った。俺以外の彼に関わるもの全てに嫉妬して、誰よりも彼を知りたい欲求に駆られてしまう。誰よりも誰よりも彼の近くで彼の何かになりたかった。彼の中の一部になりたかった。彼の歴史の一行でもいい、関わっていたかった。彼の死を以って、確かに俺はその一行になれたのかもしれない。だがその年表を実際目にしたら、俺はきっと彼の愛した最高傑作に狂う程の嫉妬を抱くだろう。そう、俺は彼の一行でしかない。俺よりも何十行も多く彼の歴史に居座る者がいる。だからこそその一行を大切に心に秘めておくことにする。彼への同化欲求は永遠に叶わぬものとなった。いやそもそもそれは彼が生きていたとしても不可能だろう(前述彼の最高傑作の存在によって)。俺はどこまでいっても彼の一番にはなれない。皮肉にも彼の死によって、ようやく俺は彼の一筋の軌跡になった。ただそれだけだった。






110530