「君は今日から、あそこの審神者になるんだよ」


そう淡々と言われて、ココに来た。


目の前には立派な門構え。
しかしそれは私を拒絶しているかのように、外界からココを護るかのように、どす黒い何かが纏わりついているのも無視して存在していた。


私は首を傾げる。


後ろを振り返ってみると、通ったはずの道は無くなっていた。









アホな子と、鶴丸さん  











あの後さんざん通ったはずの道を探したがどこにもないので、また冒頭のように門の前に立つ。


入りたくない。


誰が見たってココは危ない所だ。
100人中100人が「やめとけ、それは目に見える死亡フラグだ!」と言う。絶対。

でも、どこかで見たことがある気がする、ココ。


「(……はて、)」 なんだったか。

また首を傾げてみせたが、思い出せない。
しかもノドまで出かかっていて、なんだかモヤモヤするものだ。


……………………。


「(ちょっとくらいなら、良いよね……?)」


好奇心とスッキリしたい気持ちから、ついつい危険だと分かっているものの足が出る。

小さな橋を渡り(千と●●の神隠しみたいな橋だった)、あと少しで門をくぐり抜ける。
その時ーー


バチリッ 「ぁいてっ!」


おでこに、ちょっと何かをぶつけたみたいな痛みが走り、思わず立ち止まってさすろうとーー
したけど、私の一歩先に降ろされた細長く鋭利な刃物に目を奪われて動きを止めた。


「……運が良いなぁ、きみ」


言葉とは対称的に、至極残念そうで冷ややかな声に顔を上げると、そこには全身白い男の人が立っていた。


「でも君にとっては残念か。
せっかく何の恐怖も無く、むしろ何が起きたのか理解できないように一発で楽にしようかと思ってたんだが……避けてしまうんだからな?」

「……………」

「君個人には怨みはないが、俺達にはいらないものでな。死んでーー」「ぎゃぃああああッッ!!オバ、オバ!オバケぇぇえええええ!!!」

「………は?」
「スイマセン、スイマセン!!入ったのはほんの出来心だったんですぅ!!何か見たことあるなぁとか思った程度で入ってマジアイムソーリーでございます!!!」

「よく見たらお婆ちゃん家に似てただけでした!!」


【訃報】興味本意で入った所はお化け屋敷です。


思わず、突如現れた落ち武者オバケ(白タイプ)に全力で土下座すれば、あら不思議。一瞬でカオスの出来上がりである。
自分でも何言ってるか分からないが、とにかくオバケの怒りを鎮めようそうしよう。

土下座をしている所々で戸惑うような声が聞こえたような気がしたが、「オバケ怖い」の一心で謝罪の大バーゲンセールをするとーー。


「ーー人の話を聞け!!」 「いたぁっ!!」

ーーまあ当然、こうなります。


何か硬いもので頭を叩かれ先ほどよりかは落ち着いた。痛いがな!


「全く最近の若い連中は……よく見ろ!俺には足がある!!」
「ほ、ホンマや!!」


彼にそう言われてよく見ると、確かに足がついてる。


「立派な二本足ですね」

「何を言ってるんだ、君は……」


褒めたつもりなんだが彼はお気に召さなかったらしい。白い目を向けられた。
彼の全身白コーデは完成されたみたいだ。


「それで、白男さんは私に何か御用ですか」

「ーーちょっと待て、その“白男”っていうのは俺のことか」

「はい」


再び叩かれた。 解せぬ。


「俺の名前はーー。…………鶴だ」

「おつるさん」

「おい、そんな“おさるさん”みたいな語呂で呼ぶな!しかも女みたいだ!!」

「もう、注文の多い人ですね!ネチネチ言う男は嫌われますよ!!姑おつるさんって呼びますよ!!」

「やめてくれ?!」


その後も姑姑連呼してたら、とうとう彼が折れる。
疲れたと言った風に、“もう、おつるで良いわ……”と呟いたのだ。やったね勝ったよ!


関話休題


「ここって、本丸っていうんですね」

「ああ。
……君、そんなことも知らないでここに来たのか?」

「勝手に連れて来られて放置されたから知りません!」

「それ、自慢して言うことじゃあないぞ……」


おつるさんは呆れたように、でもどこか憐れんでいるように目を細めた。
私はそれを見ないフリをして、本丸を見つめる。


「……しかしおつるさん、よくこんなとこいられましたねぇ」

「は?」

「雰囲気がおばけ屋敷みたいですよ、ここ」


周囲に広がる黒い靄。
草木は一体いつ枯れたのか分からないが、それは地に還ることなく存在していて。
以前は大層美しかったであろう溜め池はヘドロと化して、その上にある白く小さな骨を強調していた。
厚く黒い雲はジメジメとしており、更にここを暗く淀んだものにしていた。

そんな、誰が見ても立派なおばけ屋敷を、隣の彼は心底驚いたと言った様に目を見張った。


「なんだ、これ……」

「……おつるさん、気づいてなかったんですか?」


小さく呟かれた声に質問すると、彼は顔を顰めてーーこれまた小さく頷き、そのまま俯いてしまう。
その横顔は一層青白くなっていて、どれほど彼がショックを受けているのかが伺えた。



彼ーー鶴丸国永はここ、所謂ブラック本丸という所にて、以前は生きていた審神者に顕著された。
その時には既に彼ら付喪神の怒りによって空気は淀んではいた。しかし、ここまでヒドイものではなかった……。

今漸く現状を目の当たりにして、これほどまでに荒れてしまった彼らの力を悲しむと同時に、全く気付くことが出来ないほどに自分まで堕ちてしまっていた事実に、彼は愕然とするしか他なかったのだった。


しかし、そんなことを少女は知るはずもなく。
「(まあ、自分家がいつの間にかおばけ屋敷になってたら嫌だよなー……)」
とか、全くもってお気楽な思考で、鶴丸の表情を読み取っていた。


「(……待て。じゃあ、なんで今更気が付いた?)」
それは、鶴丸の中で不意に過ぎった疑問だった。


少女に指摘されるまで気が付かなかった本丸の変わりよう。
しかし、今までだって何度もこの憎たらしい本丸を見上げたことがある。


ーーなのに、なぜ……ーー


思考に耽ろうとしていた鶴丸の頭に、微かな重みが加わる。本当に小さくて、軽い重みだった。
一瞬止まるものの、鶴丸はその重みの正体を次には理解した。


どかそうと思った。

いっそのこと、斬ってやろうかとも思った。


しかしその重みは暖かく、どこまでも優しいもので、気が付いた時には彼はそれを甘受していた。


「大丈夫ですか?」

「……………っ、」


少女の目は、重みと同じくらい優しいものだった。

初めて会った彼にこれほどの目を向けられる彼女は相当のお人好しなのか……。
それでもその瞳は鶴丸にとって、堕ちてしまった付喪神にとって、とても眩しいものだった。

そして、同時に思う。この少女なら……きっと、


神様は口を開く。


「俺を……」


眩しいのに、それでも焦がれて。


「俺達を、助けてくれ……っ!」










* * *

このあと鶴丸さんと少女は協力して本丸に行くのでしょう。


鶴丸さんは刀剣男士を助け出しに。

少女はゴーストバスターしに。←





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