「ロミオー、ロミオちゃーん?」


かれこれ続けて5分間。
私はずっと彼の髪を引っ張っている。

――クイクイ、クイクイ。

自分でもまあよく飽きもせずやり続けているとは思う。
だがしかし、私が悪いのではなく、彼が悪いわけなんだけど。


――ウソです。実のところ、誰が悪いかなんて全くわからないです。
だって、私が彼を構っている間も、その前からも、なーんにも言わないんだから。

ただ、おもちゃを買わないと言われた子供のように、不機嫌です、拗ねてますオーラ出しているだもの。


わたしゃ、エスパーではないぞ!


「ちょっとー、もうそろそろ不機嫌な理由、話してくれませんかねー?」


“私、これでも忙しいんですよー”と言って反対側のソファーに腰掛けると、なぜかこっち側に座るロミオくん。
しかし未だに顔はぷんぷんぷーん。

こいつ、ツンデレか。

仕方ないなぁと呆れつつ、自然と綻ぶ口元。
私も大概、素直ではない。


しかし忙しいのは事実で、すぐに手元にある資料を読み始める。


副隊長になった私は紙面作業が一気に増え、慣れていないこともあり、作業は難航してしまうことのほうが多い。
(今までこの3倍以上を一人でこなしていたというジュリウス隊長には、最早頭も上がらない)
だから、帰投直後からずっと仕事とランデブーなんてことはざらで、気がついたらもう次のミッションの時間ということもあったり。

だから、ぶっちゃけ暇なんていう時間は、全くもってないのだ。


――なんか、できるOLみたいだな。
とくだらないことを考えていると、急に重たくなる右肩。


隣を見て。

「わぁ、悪霊に取り憑かれたかもしんないなー」と、棒読み。
それに対して彼はこちらを睨む。

「悪霊じゃねぇし」と話している時点で、一応自覚はあるらしい。


あいや、ならばその重たい頭をどかれよ。

しかし彼は知らん顔。


「もぉー、私、この資料確認したらすぐに、隊長のところへ向かわなきゃならんのですよー?構って君に付き合っていられるお時間はもう終了しましたー、ガラガラですー」


そう言うと、一際大きく刻まれる眉間の皺。


「……せっかくのベビーフェイスが、ジジィフェイスになってますよー」

皺を伸ばすように示指で眉間をグリグリしてると、その手ごと抱え込まれる。


「ちょ、ロミオ先輩っ……?」


傍から見たらなんだかマウントポジション取られた感じだけど、こっちから見たらただしがみつかれたようなものだ。

油断してたからか、思わず出た声は上ずったもので。
意識し緊張してるみたいで、とてつもなく恥ずかしいこの上ない。


「――――だよ、」


「え?」



「だから、俺にもっと構って欲しいんだよ、ばか!」


そう言った先輩の顔は赤くって。

かわいくって笑っていたら、不意にチューしてくんだもの。









今度は  
私が、赤くなる番だった。










……不意打ちって、酷いと思いません?





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