「ねぇ、もしさ、未来を知ったらどうする?」


それは、隣にいた彼女が、唐突にこぼした言葉だった。


「未来、か?」

「うん、未来。何日に何が起こるとか、図らずも知っちゃったらどうする?」


「…………」


考えてみる。

この先何が起こるのか


そんなことを知る機会があるなら……。


「任務の際、楽になるな」


どこに、どんなアラガミが来るのか。
それが分かったら、確実に強襲しやすくなるし時間も短縮できる。

「それはそうなんだろうけど……」


そう考えて伝えたが、それは彼女の望むものではなかったらしい。
腑に落ちない、そんな顔をした。


「例えばさぁ……例えば、だよ?
 親しい人が死ぬって、知ってしまったらさ」


ジュリウスは、どうする?


数秒、瞬く。


考えられない話ではなかった。
実際、今の世ではいつ死んでもおかしくないのだから。

しかし、俺の親しい人たちといえば目の前にいる名前然り、ラケル博士やブラッドの皆と極少数で。
ゴッドイーターという役職でもあるからか、心のどこかで自分たちは大丈夫なのではないかと思っていたのだろう。
そこまでの思考には、至らなかった。


だから彼女の質問が不意打ちで、ことさら響いた。



「俺なら、そのような未来が起きないよう手を尽くす」

「その結果、何が起こるかわからなくても?」

「ああ。ブラッドは家族、家族は守るべきものだろう?」


ここでようやく、彼女の晴れなかった顔が変わった。

それは悩みが解消されたような、軽やかなもの。


「そうだよね、うん。ブラッドは、家族だもんね」

「名前はどうするんだ?」

「わたし?私もジュリウスと同じだよ。なんとしてでも、守る。
 例え――」












雨が、降り始める。

大地を呪うかのような、赤い雨が。


そのおかげなのか、そのせいなのか、彼女の周りの大地が赤いのは必然なわけで。


だから、これは、違うものだ。



「……名前、」



隣にいたロミオが、か細い声で彼女の名を呼ぶ。


――やめてくれ
まるで、彼女が――……


「ロ、ミオ、ジュリウ、ス……」


その声に呼応するように出たそれは、今にも掻き消えそうなもので。


――やめてくれ、
そんな、彼女らしくない声を出すのは


「これ、絶対、ブラッドのみんなで、見て……」


そう言って手に出したのは、一つの記録媒体。
それさえも、赤く染まっていた。


「フライアに戻ったら、全員で見れば良いだろう」


わかっている。わかっているんだ。


「うん、そう、だね……」


それでも諦めたくなくて、彼女がいる前提で話す。

それなのに、彼女はただただ笑むだけだった。


「でも、もらっておいて、欲しいな……。なくすの、嫌だし…」

彼女の手が、カゲロウのように揺らめく。

思わずその手を取ると、待っていたかのように乗せられるそれ。


「お願い、ね」





――それから名前が話すこと、動くことはなかった。









永遠に  





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