月日は僕たちの気持ちも気にせずに、これでもかってぐらいに目まぐるしく廻り続ける。
でも、そんな僕の側には何時だって君が居た。


………そう。


まるで、僕の隣に居るのが当たり前の様に。
枯れない花を咲かし続けながら……──。









側に……  










私と沖田さんは、夜の森の中を突き進んでいた。





目指す場所は千鶴ちゃんが住んでいた場所、雪村家跡──





──雪村の地の水は、羅刹の狂気を抑える効果がある──





そんな僅かな希望の情報を頼りに、私達は道なき道を進んでいた。





あまり話さなかったけど、それでも嫌な雰囲気にはならなかった。





ただお互いに、私は沖田さんの手を、沖田さんは私の手を──。





離れない様に、離れる事のない様に、強く握りあっていた。





互いが存在している事を、確かめ合うかのように。





そんな時、沖田さんは歩を止めて私の方に振り返る。





……私が好きな、あの笑顔で。





「名前ちゃん、今日はここで休もうか」



「そうですね」





私は微笑んでそう返す。





見上げれば、黒塗りの空には綺麗な星がキラキラと輝いていた。





──羅刹になってしまった沖田さんが、見上げる事の多くなった空だ。





………沖田さんは。





【労咳】という肺結核により、だんだんと動かなくなっていった己の身体を誰より憎んだ。





──近藤さんの役にたてなくなる──





役立たずな、そんな身体を。





そして、局長の役に立ちたい一心で……。





羅刹の道を歩む事を決めた、彼。





私は、羅刹になる道を決めるほど追い詰められていた沖田さんの気持ちに、なんで気付いてあげられなかったのだろうと、後悔した。





自分の無力さに、腹が立った。





気付いてあげられなかった、罪を償う為──。





敵の撃った銀の弾丸により、羅刹による回復が憚れ重傷を負った沖田さんの看病を、私は自ら推薦した。





沖田さんの看病の命を受けた山崎さんと共に、松本良順先生が手配してくれた隠れ家で、沖田さんの看病をし続けた。





銀の弾丸により、なかなか回復しない沖田さんを見て──





私にできる事はないの?





沖田さんの為に、何か……。





いつしか、そう思うようになっていた。





──ああ。私、沖田さんが好きなんだ。





そのうち、自分の本当の気持ちに気付いた。





償うなんて嘘。





私はただ、沖田さんの側にいたかっただけ……。





それに気付いたらその気持ちは止めどなく溢れでて、目の前に居る愛しい人を何としてでも助けたかった。





それなのに、何もできない無力な自分が腹立たしくて……。





悔しくて、ただただ涙を溢すだけが事実だった。





そんな私なのに。





そんな私だったのに……。





「僕は君が好きだ。いつの間にか、君を愛しく想ってた」



「──君が君だから、僕は好きになったんだよ」





少し照れくさそうに、でも真剣な眼差しで、彼はそう言ってくれた。





夢ではないのか。





自分は、都合の良い夢を見ているだけなのかな──





そう思ったけれど、重なり合う唇と唇の熱が現実だと教えてくれて……。





心が温かいもので満たされるのを感じた。





恥ずかしくて、それでも嬉しくて、私の顔はただただ真っ赤に染まる。





そんな私を見て、沖田さんはいつもの意地の悪い笑みを浮かべていた。





最初は、そんな沖田さんに拗ねてたけれど、あまりにも無邪気に笑う彼を見てて、私はとても幸せな気持ちになれた。





小さな幸せでもあって、とても大きな幸せな気持ちに……。





──こんな幸せが、ずっと続くといいな──





……そんな気持ちで私は、沖田さんの大きくて温かい手を握ったんだ。







――――――――――――







「もうちょっとかなぁ?千鶴ちゃんの故郷の場所」





沖田さんは地面に寝転がっては、うーんと背伸びを一つして、そう独り言かのように言う。





……猫みたいだなぁ。





「あともう少しで着くはずですよ。私の記憶が正しいものであれば」



「うん。じゃあ、大丈夫だね」





沖田さんはにっこりと笑って私を見る。





………あれ?





「大丈夫大丈夫。
名前ちゃんが言うなら、本当にあとちょっとだよ」





………あれれ?





そこまで期待というか、信頼されても、困る。





実際に行ったことがあるわけでもないし……。





そこで気付いた。





沖田さんは、ニコニコしながら私を見ている。





口角はイタズラに上がり、どこか悪巧みを考えている少年を思わせるものだった。










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