死ぬ前に、本気の恋をしたいと思っていた。



美朱と共に、四神天地書に吸い込まれてやって来たこの世界。



最初は見知らぬ世界に飛ばされて不安だったが、美朱もいたから心細さは無かった。



だけど……。



美朱はすぐに、朱雀の巫女という居場所を見つけた。



……私一人だけ、取り残された気分になった。



私と美朱は違う。



ここに来た原因が分からず、元の世界にも戻れない。



……美朱と違って。



孤独感に一人、押し潰されそうになっていたとき。



──大丈夫よ、あたしがいるから──



朱雀の巫女でなければ、重要な人物でもない私。



そんな私に向けられた柳宿の言葉が、何よりも嬉しくて、何よりも心に染み入った。



彼となら頑張れる──。



そんな自信が、不意に出たの。









意地悪な彼に  












「名前ー!」



愛しい人の呼ぶ声がする。



私の口元はつい緩み、駆け足でその人の下へと走った。



「──柳宿っ!」


「わっ!!」



彼の背中を見つけた途端、それに向かっておもいっきり抱き着いた。



……久しぶりの柳宿の匂いに、私の表情筋はだらしなく緩みっぱなしである。



私だと気付いた柳宿は驚いた表情から一変して、柔らかいものへとなった。



「なぁに、名前。
あたしが居なくて寂しかったの?」



返事をする代わりに、少しだけ腕の力を強めた。



そんな私にくすりと笑みを溢すと、小さな子をあやすかのように抱き返して背中をぽんぽんと叩いてくれる。



……気持ち良いリズムだ。



「柳宿、怪我してない?」


「してないわよ。
怪我なんてしたら、心配性の誰かさんに気苦労かけてしまうもの?」



そう言って私の額を小突く柳宿。



……心配性って、柳宿も十分心配性だと思うんだけどなぁ……。



──と、いう言葉は心の中に留めておく。
(声に出したら、後が大変だからである)



とりあえず。



「怪我してなくて、良かった」



心から出た言葉に、柳宿は一瞬目を見開いた。



そしてすぐに。



「……今の笑顔は反則でしょ……」



そう言って、少し赤く染まった頬を隠すように、彼はフイッと顔を反らした。



そんな、普段は見ることができない可愛い柳宿の姿に、愛しさのあまり思わず笑いが込み上げてくる。





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