この町に引っ越して来て早々、前に一度、散歩がてら歌舞伎町をブラブラしていた時にある事件に巻き込まれた。簡潔に結果論だけを述べると、ただのチンピラ同士の抗争に、たまたまそこに出くわした自分が巻き添えをくらった…というもの。

「おいおい、よく周りを確認しろ若僧共。お前等の真横にすっげぇ可愛い子ちゃんが泣いてんじゃないのよ」

一見それは少女漫画のヒーローのような台詞ではあるが、まさかの見当違いである。決して彼等の真横には立っていないし、そもそも私は泣いてなんぞいない。

「悪いねー、出番が遅れて。でも俺が登場したからにはもう大丈夫だ。大船に乗った気でいろ」

そう言って、無駄に白い歯を出して口の端を上げた目の前の男の見た目は意味不明だった。何故ならどう見てもそこそこ若い20代後半に見えるのに、男の頭髪の色は銀髪…てか、何かよく分からんが白髪に近い色だったし、それに何よりあれだ。呼んでない。

「うーし、じゃあ今からお前等の相手はこの俺な。来い!全力で逃げてやる!」

しかも逃げんのかよ!?とかしっかりツッコミを入れた所で言葉とは裏腹にバッタバッタと男は相手を木刀で投げ倒し、そしてあっという間にカタをつけては、ゆらりと気怠そうに此方側に振り向いた男とばっちりと目が合う。そうして彼は私に向かってこう言い放った。

「お礼はイチゴパフェ10皿で良いから」

ちょっと格好良いとか思った私の感動を返して欲しい。その時、腹の底からそんな事を考えては、こいつとだけは関わりたくない。…と、思った。





「おーい、誰だー。俺のイチゴ牛乳飲んだ馬鹿はー」

「はいはーい!私ヨー。めっちゃ甘ったるくて相変わらず微妙な味だったネ!」

「やっぱおめーかっ!ほんっといい加減にしろよこのくそガキ!つーか微妙だったって言う割には思っクソ全部飲み干してんだろうがっ!死ね!」

ドアを開けた瞬間、ぎゃあぎゃあと大人げの無い発言を口々に叫んでいる銀時と、その銀時に対して鼻くそビーム!とか訳の分からん攻撃を開始した神楽ちゃんの姿が視界に入った。それを目の前にして私は自嘲気味に笑う。

……………何がどーしてこーなった。

「あ、ナマエさんも来てたんですね!さっ、じゃあ一緒に中に入りましょう」

「あー…うん、そうね。取り敢えず入るわ」

「はい、あの馬鹿共の事は無い物として考えましょう!」

銀さーん、神楽ちゃーん。ナマエさん来ましたよー。一応伝えておきますねー。

まるで銀時みたいに死んだ魚のような眼をして、適当に私がここに来た事を告げる新八君の後を追う。そのまま部屋の中心に配置してあるソファーへと腰掛けては、未だぎゃあぎゃあと取っ組み合いの喧嘩をしている二人へと冷めた視線を向けた。その二人の姿をぼんやりと眺めつつも私は今更ながら自分に問う。

何で、こんな訳の分からん男の彼女なんてやってんだろう…と。

『お嬢さん、良かったら俺とアダルトな関係になりませんか』

遡る事半年前。もはやそれただの嫌がらせだろ!ってレベルの言葉と想いを此方に伝えてきたのは、あの最初に(一応)私を助けてくれた銀時だった。正直、もう2度と奴と関わるつもりは無かったが、どうやら彼はこの歌舞伎町内ではなかなかの有名人だったらしく、事ある事に外に出掛けてはその度にほぼ毎回と言って良い程の確立で銀時と再会していた。そして悲しくもしつこく口説かれ続け、当然、何度も丁重にお断りした。のだが、何故かそれが銀時には通用せず、次に気付いた時には彼の女へと見事変貌を遂げていたのである。

『アダルトな関係って、セフレって事ですよね?』

『あ?んな訳ねぇだろうが。喜べ、たった今お前は正式に俺の女に就任した』

そう言って、その発言の後に鼻をほじくった目の前の男に飛び蹴りをかましたのは未だに私の武勇伝である。何が悲しくてこの男の女にならなきゃならんのだ。そんな意味を盛大に込めて蹴り上げたあの日、結局銀時の強引さと口車に負けて、晴れて…ではないが、私はこの男の女となった。

「…………でも、やっぱ意味分からん」

そうだ、それに尽きる。そもそも何が原因で彼に好かれたのかもよく分かんないし、そしてそれ以上に何故あの時の自分も最後まで無理だと強く押し通さなかったのかも含めて全てだ。世の中って奴は予期しない事が二転三転と転がっていくもんなんだなぁ。とか、冷静に考えてる場合じゃない。ニート侍の女なんて御免被る。

「よし、今日こそ言おう」

うむ、と一人大きく首を縦に振ってはその場に勢いよく立ち上がる。そのままズンズンと未だにイチゴ牛乳戦争をかましている、あの馬鹿共の近くに寄り、そうしてそこでこれでもか!とう程の大声でこう叫んだ。

「つーかそれまじでどーでも良い事だろうがァァァアア!からのお前ら二人うっせェェェエよ!」

ガッシャーン!と、派手な音を纏って空中に銀時の身体が舞う。そのままボールのように部屋の隅っこまで見事に転がって行った一つの影を追い、途中で改めて怒りに満ちた気持ちへとシフトチェンジをした。はい、そこで奴の背中に右足を振り落とす。つーかまえたー。

「いだっ!いだだだだ!折れるぅ!まじでアバラ折れるからこれっ!」

いやギブギブギブ!と、まるでプロレスラーが相手にカウントをかまされているかのような表情と動作で私に降参を告げる男をゆらりと見下ろす。そのまま感情のない目でギロリと鋭い視線を向けると、「ぎゃ!なにその怖い顔!ナマエちゃん折角の美人が台無しだよ!」と銀時は真っ青な顔をして、何とか私の機嫌を取り戻そうとあーだこーだと模索し始めた。

「うっさい、黙れ万年金欠ニート侍」

「ちょっと!当たってるけどせめてオブラートに包んで!」

「つー訳で別れよう、さようなら」

「どんな話の流れ!?」

おいー!ちょっ、待てよ!前髪をふぅふぅしながらもその場に体勢を整えた銀時がキム○クさながらの相槌を返してくる。うざい。

「短い間でしたが今までお世話になりました。では」

「ちょっ、待てよ!おい!」

未だキム○クの物真似を披露しつつも、銀時の大きな手がガシ!と強く私の右足首を捕まえ、「原因は何!?」と叫んでいる。原因…?だから言ったじゃん。

「方向性の違いです」

「何の!?つーかバンド!?バンドなのそれ!?しかも聞いてねぇしそれ!」

「もーまじで何でも良いから別れてってばーまじお願い。5円あげるから」

「少なっ!せめて300円ぐらいにしとけや!」

ぎゃあぎゃあと地団太を踏みながらもその場で文句を叫んでいる銀時をフル無視して踵を返し、そのままスタスタと一度も振り返る事はなく、途中新八君に軽めの挨拶をしながらも玄関の戸口を開けた。そこですがすがしい程の晴天の空を見上げながらも、ふぅ、と一息つき、別に特に何も汗ばんでない額を手で軽く拭う。

「遂に言ってやった…!アディオス、ニート侍…!」

まるで一昔前の少女漫画のヒロインみたいに目をキラキラと輝かせて万事屋を去る。最後に「ちょっとォォォオ!ナマエてめっ!無視してんじゃねぇぞこらァ!」と、銀時の声が聞こえた気がしたが、敢えてそれには気付かないフリをして、もう2度と来る事はないであろうこの場所に、満面の笑みを浮かべつつもそっと別れの言葉を告げた。





「で?何でその流れで此処に来るんだよ…馬鹿かお前」

「……………」

フーっと、毎度ながら白い煙を高く高く天井まで燻らせるV字前髪の彼へと体育座りをしたままチラリと視線を向ける。そのまま無言で念を送ってみたがどうやら彼に私の考えは届かなかったらしい。ちっ。なんだよ、使えねーな。

「だっまれ馬鹿女!ナマエてめえ、ほんっといい加減にしろよ。毎度毎度思い出したかのように屯所まで押し掛けてきやがって…此処はなぁ、お前等二人の痴話喧嘩の愚痴を聞く所じゃねぇんだよ。分かったらとっとと帰れ。しっしっ」

「嫌だね!てかあんた等警察でしょ?だったらどーにかしてあの銀髪男からストーカー被害を受けてる私を匿うとか何とかしなさいよ!いや間違えた、やれ!」

「何処までも態度デカいなお前!つーかやる訳ねぇだろうがんなもん!そもそもお前一応ちゃんとあいつの女だったんだろうが。人はそれをストーカー被害にあってる女とは呼ばん。ただの馬鹿と呼ぶ」

「土方てめっこのヤロー!V字前髪の生え際から後退しろ!ハゲ散らかせ!」

部屋の隅っこで、ゴゴゴ…と青い炎を纏って怒気を含んだ声を挙げては土方コノヤローに不満の言葉を並べた。そんな私に向かって、「だっれがV字前髪だ!つーか死んでもハゲてやらんわ!」とか何とかかんとか言って、土方コノヤローが私に向かって文句を叫んでいる。勿論、そう言った都合の悪い話は無視だ。因みにこの呼び方は、以前から崇拝しているドS界切り込み隊長の沖田殿下から教えて貰った。まさしく使い勝手が良い。流石です、殿下。

「まーた万事屋の旦那との喧嘩ですかィ。おめーも懲りねぇ女だなナマエ」

「で、殿下…!」

ちわっす!そんな体育会系さながらの言葉を交えて、颯爽と登場した殿下へとその場に深々と頭を下げる。「おい…ナマエお前、崇拝する男の選択間違ってるぞ」とV字前髪が冷静にツッコミを入れてきたがそれを軽く無視して、某巨人駆逐漫画のように心臓を捧げよポーズを勢いよく決め込んだ。

「にしても、お前がまたこうして此処に来たって事は…」

「あぁ…来るな、奴が」

「えっ!」

と、そこまで殿下とV字前髪との会話が続いた所で「ちわーす、万事屋でーす」と非常に聞き覚えのある声が背後から聞こえた。勢いよく襖が開いたと同時に聞こえてきたそれに、「ヒィっ…!」と喚いては、おそるおそるゆっくりと振り返る。で、出た…!!

「いやぁー、此処にうちの可愛い可愛いナマエちゃんが逃げ込んでませんかねぇ?」

「いや見りゃ分かんだろうがっ!いーからさっさと連れて帰れ!そんでもう2度と此処に来れねぇように一生見張ってろ!」

「旦那ぁー、一応こいつは俺のお気に入りの下僕なんでね。虐めるのはそこそこにしといてやって下せェ」

「わァーったよ。ったく、んじゃ帰んぞナマエ」

「嫌ァァァア!帰んない!絶対絶対ぜ――ったい帰んない…!!」

「黙れ犬。あんまふざけた事抜かしてっと、てめぇ今日の晩飯抜くぞ」

「晩飯どころか一回もご飯とか出て来た事ないんですけどォォォオ!」

何の見栄張ってんだよ!?とか色々ゴタゴタ文句を叫んでいる私の首根っこを捕まえて、ズルズルと私の身体を引き摺っていく糖尿病野郎。くそっ…!さっきまでの優位な立場は何処に行った…!?てかあれ?私ちゃんとさっきこの男に「別れよう」宣言したよね?何普通に無かった事になってんのこれ。え、ヤダこれ。何これ。

「んじゃまぁー失礼しましたー」

「ちょっと待ってェェエ!で、殿下ァァア!助けて…って、!?」

恐怖心から来る盛大の雄叫びをかました所で、崇拝している沖田殿下へと助けを求めた。が、そこで私の動きはピタリと止まった。…なんっだあれ!?なんっだあのポーズ!グ、と力を込めて此方に親指を突き立てている殿下のあのカオスなウインクは、もはや何かの死の宣告にしか見えないんですけど…!

「お、終わった…私の人生…」

引き続き屯所内をズルズルと引き摺られながらも、一人小さく肩を落とす。何であっちもこっちも私の周りにはドSな奴しか居ないのだろうか…何かもう今更遅いけど、V字前髪ならぬ土方コノヤローが一番まともな奴に見えてきた。次回は粗品片手に掌返して、ヘコヘコとご機嫌取りにでも行こう。そうしよう。





「おい、なーにそんな離れた所に座ってんのお前。さっさとこっちに来い」

「無理、ヤダ、怖い。だって殺される」

結局、昼間もう2度とこの場所に足を踏み入れる事はないだろうと思っていた部屋の隅っこで、壁に向かって体育座りをかましている私。と、そのど真ん中に位置するソファーで気怠そうに腰掛けている銀時。そんな私達二人しか居ないこの状況下では、もはや生きた心地がしない。……ねぇ、何でこうなるの。誰なの、こんな状況を作り出した馬鹿は。ってそれ私じゃん。よし、死のう。

「待て待て待て待て。ちょっとォォオ!何してんのお前!?馬鹿なの!死ぬの!?」

「ご名答!流石だな銀時!はっはっはー!」

「おいィィイ!今はそんなヅラの物真似はいらねぇんだよ!ちょっ、まじでお前危ねぇから!良いからこっち来い!」

ガシィ!と言わんばかりの強い力で、窓枠に片足を引っ掛けていた私の身体を背後から包み込んだ銀時が自分の元へと引き寄せる。と、そこでお決まりのように床に勢いよく二人して倒れ込んだ。鈍い音を立てて、同時に椅子と机の角っこに頭を強くぶつけた銀時が、「もうヤダこれ…痛いんですけど…!」と泣きそうな顔で弱弱しく呟いている。しめしめ、逃げるなら今の内だ…!

「っておい、逃がす訳ねぇだろうが。馬鹿かてめーは」

「ぐぇっ…!?」

まるで鳥の金切り声みたいな呻き声を挙げて、見事そのまま銀時の大きくて厚い胸板に収まってしまった私。あろう事か、わざわざ力強く片手で私の肩を抱き寄せられている為、にっちもさっちもいかない状況である。その姿はまるで、トラップに引っ掛かった豚…いや、ネズミのような光景だ。無様なのにも程がある。

「ったく…一体何がそんなに気に入らねぇんだよ。ちゃんとこうして毎回お前に精一杯の愛情を注いでやってんだろうが」

「だからそれが嫌なんだってば…!別にそういうの求めてないんだって!」

「あぁ?よく言うなぁお前。毎回俺に抱かれる度に昇天しまくってる癖にか」

「!!」

な、何故今それを話題に持ち出す…!?とかグルグル脳内で文句を叫んでは、羞恥心と情けなさとその他諸々で胸の中が一杯になってしまった。………そう、そうなのだ。ここまで沢山の文句と抗議の気持ちを訴えてきたくせにお恥ずかしい限りなのだが、この銀時の指摘は大いに合っている。気持ちとは裏腹に、本当にその言葉通りほぼ毎回と言っても良い程彼に抱かれまくっては、その度にこれまで一度だって経験をした事ないぐらいの未知の快感の世界までぶっ飛んでいる日々が続いていたりするのだ。日々ってか、この半年間ずっとそうだったりする。いや…まじで死にたい。ダサすぎ、自分。

「で?結局お前何が不満なの。新八と神楽でも分かるように簡潔且つスピーディーに説明してくれる?」

「……………」

はぁ、と至極面倒臭そうな溜息を吐いた銀時に背中をポンポンと優しく撫でられる。それにいつものように安心感を得て、ぐっと自分の中での怒りと恐怖は一旦胸の奥底へと収まった。………気持ち良い。いや、別に変な意味じゃなくて。

「………だって、さぁ」

「あ?」

「わ、分かんないんだもん…何で銀時が私を選んだのかが…」

「……………は?」

「私の何を見て…好きになってくれたのかも未だによく分かんないし…、そ、それに…」

「………それに、何だよ」

そこまで口にした所で、上に覆いかぶさっていたままの自分の身体を銀時の身体からそっと離し、そのまま真下で床に倒れたままの銀時へと視線を落とす。

「………最近、自分が怖くて…」

「………………はぁ?」

「だ、だって…!銀時の周りにはいっぱいいーっぱい可愛い子やら綺麗な子やらが沢山いるじゃん…!」

「………………」

「だ、だからその…つまり…」

「ふぅん…なるほど。そういう事な、よく分かった」

「………え?」

なにが?と、口に仕掛けた所で一気に身体が反転する。慣れた手付きで私の腰廻りに腕を巻き付けた銀時が「よっ」と軽快な声を挙げては、床に体勢を崩された私の顔の横に両手をつき、「ナマエ」と甘い声で私の名前を呼んだ。

「要するにあれだ、お前は俺の事が好きで好きで仕方ねぇんだろ」

「は、はぁっ…!?なんっでそうなんのよ!ち、違う違う!全っ然違う…!」

「馬鹿言え、何が違うんだよ。んじゃー今そのノリノリなご様子で俺の首に巻き付けてるお前のその腕はなんだ?あ?」

「!?ばっ…!だ、だからこれはちが…!」

「諦めろナマエ、お前はそんだけ俺に惚れてんだ。だったら黙って俺の傍に居りゃ良いだろうが」

「だ!だからぁ…!違うって言ってんでしょ…って、んん!」

そこまで否定の言葉を繰り返した所で、目の前で一瞬悪人みたいに悪そうな顔をして笑った銀時に、噛みつかれるようなキスをされた。チュ、と小さなリップ音をわざと立てて、そこで少しだけ唇を離した銀時の表情を思わず無意識に下からそっと盗み見る。

「………お前の負けだ、ナマエ。さっさと素直になれ」

そう言って、普段のヤル気のない顔からは全く想像出来ない程の色気を含んだ表情で、銀時は目を細めつつも私の後頭部に腕を滑らせ、顎に手を掛ける。そのまま慣れた手付きで、またいつものように私の唇を塞いでは、何度も何度も「お前が好きだ」と珍しく私の耳元で甘ったるい台詞を紡いだ銀時に、ドクン、と大きく心臓が飛び跳ねた。

「お前の何処に惚れたかって?んなの一つに決まってんだろ」

「……っ、え?」

暫くキスを繰り返し、その途中で一旦休憩を挟んだ銀時の妖美な顔がすぐ目の前にあって。その端正な顔と色気を含んだ低い声に目が点になる。そしてそのままもうはち切れるんじゃないの…!?という勢いで、再び私の心臓の動きはより一層速さを増した。ふ、不覚にもちょっと格好良いんですけど…!ちょっともう…!これは銀時が言うように、もはや自分の気持ちを認めるしかないのでは…!?

ぎ、銀時…私もあんたのこと、


「その豊かな胸だ。決まってんだろ」


と、そこまで自分の気持ちを素直に認め掛けた所で、ピタリと脳の活性化を衰退させた。からの次に沸々と湧き上がってくるこの黒い感情。………おい、何だその腐った芋みたいな理由は。ナメてんのか、この白髪万年金欠ニート野郎。

「何を今更そんな事俺に聞いて…って、いだだだだっ!!……は!?痛っ!!痛いってナマエちゃん…!!何突然!?」

「死にさらせてめっ!銀時この野郎ォォォォオ!!」

「だから何でェェェェエ!?」

つい何秒か前のロマンチックな展開は何処へやら。一瞬で空気が入れ替わったその銀時からの素っ頓狂な発言に、そこで一発お得意の足蹴りならぬ飛び蹴りをぶっ放した。

「やっぱり無理!あんたみたいなニート侍なんて死んっでも願い下げよ!!」

でも本当は、口ではそうは言うものの内心何処かほっとしている自分が居た。きっと何度も何度もこの半年間、銀時と別れたいと思っていたのも、そしてそれと同時に常に自分の気持ちに疑いを掛けていたのも、どれもこれも結局はこのどうしようもない男に惚れていたからに過ぎないのだ。これ以上彼の傍にいたら、いずれもっともっと自分の気持ちは大きくなり、これ以上手の施しがない程膨らんでいっては、銀時への独占欲だけが日に日に増していくに違いない。そしていずれ完全に銀時を縛り付けてしまう。だったらそうなる前に、さっさと逃げ出しておいた方が懸命だと、頭の片隅で無意識にそう考えたのだろう。


『諦めろナマエ、お前はそんだけ俺に惚れてんだ』


…………全く。一体いつからこんなにも、自分はこの駄目男に惹かれていたのだろうか。まさかとは思うが…最初から。なんて事はないだろうな…それだけはまじ勘弁してほしい。


蜘蛛の巣に引っ掛かった獲物でもあるまいし。


こんな未来予想図なんて、全くの想定外だったよ。いや、ほんとに。





(おいマヨラー、もしあいつが此処に来る事があったら速攻俺に連絡して来いよ。んで速攻で連れ戻すから)

(わァーったよ、良いからさっさと帰れうぜぇ…)

(旦那、いつにもまして女に必死ですねィ。珍しい事もあるもんだ)

(全くだな。まぁーあいつの性格上、死んでもナマエには一目惚れだったとは説明してねぇんだろうがな)

(土方さん、あんた何でそんな事知ってんでィ。…!ま、まさかあんた…実は裏で旦那と出来て…!)

(ねぇよ!出来てねぇ!んな訳あるかっ!死ね総悟!)

(お前が死ね、土方)

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