※学パロ


男女の付き合いなんて浅はかだ。男に媚びる為に女は可愛さを演出する。それに気付かずまんまとハマり、そしてお決まりのように男はその念密に作りあげられた虚像に落ちていく。その先にある真実なんて、きっと誰も見ようとはしないんだ。




「え?また別れた!?」

「うん」

「うんってあんた…今年に入って何人目よ。どんだけ男を振れば気が済むの…羨ましい事山の如しなんだけど!?ていうか!別れた原因は…!?」

「んー…原因、かぁ。なんだろ」

そこまで答えて女は一度また冷静になる。ちっとも考えてはないが、友人の手前一応というべきか「ふむ、」と呟きつつも顎に手を添えて開口一番こう答えた。

「飽きちゃったから、かな?」

そう呆れて物が言えない友人に対して、満面の笑で横に首を傾げながら。



『ねぇ!聞いた!?また2組のミョウジさん男と別れたんだって!』

『聞いた聞いた!あのバスケ部のイケメン主将でしょ!?勿体な!!』

『まぁー確かにあの子可愛いからねー。あの主将を振っても格好つくからいいけど』

『でもさぁー、ミョウジさんってあれだよね。なーんか自分が可愛いって事よく分かってるよね』

『あーね、分かる分かる。でもあれじゃん?』

『えー?』

『あーいうタイプの女はさ、本当に好きな男からは相手されないタイプだよ』






「相変わらず好き放題言われてますなー」

口にハンカチを咥えたまま、御手洗場の蛇口を捻り、ジャバジャバと派手な音をたててこちらに問いかける人物は私の幼稚園からの大親友、もとい悪友の内の一人だ。物心ついた時から何故か同姓に嫌われる率100%の私には、他に特別仲が良い友人はいない。…いや、むしろ仲良くしたいと思える女子がいない。女はどうしてこうも互いを査定したがる生き物なんだろうか。別にルックスが良いからだとか、あの子は性格悪いなど、一体どんな基準で決めつけているんだろう。あぁ心底面倒臭い。

「まぁ気にすんな。どーせみんな勝手に嫉妬してるだけだから。まぁ、あんたが来るもの拒まず去るもの追わずのスタンスだから余計イライラするんだろうよ」

「そりゃどーも。別にそんなつもりはないけどね昔から。気にしてないから良いけど」

「まぁーあれじゃん?私だけナマエの事理解してたら良いじゃん?ドンマイ!モテ子!」

「はは、そりゃどーも」

バシバシ!と大笑いしながら二度私の肩を叩いた友人は、「じゃ、うちのクラス次の授業移動教室だからまた後でね!」と言ってパタパタと去って行った。はぁ、と軽い溜息を吐きつつもその背中を見送ると、踵を返して自分も教室に戻ろうとクルっと方向転換をして歩き出す。

『我が校が誇る優秀な生徒、トラファルガー・ロー君。全国模試一位おめでとう!』

暫く長い廊下を突き進んだ所で飛び込んできた文字。校内掲示板にデカデカと張り出されていた記事にピタリと足の動きが止まる。………トラファルガー・ロー。あぁ、クラスの女子達がキャーキャー騒いでいたあの男の事か。確かイケメンで成績が学年トップで運動神経も良いともっぱら噂の奴だった気がする。へぇー、また模試で全国一位だったんだ。やるな。

「くだらねぇ記事だよな、それ」

行くか。と心の中で呟いたと同時に背後に被さった聞きなれない声。振り返ってみると目の前に広がる景色は黒一色…ではなく、学ランに身を包んで気怠そうに腕を組んだまま壁に寄り掛かるある一人の男の姿だった。わお、背デカっ。

「確かに勉強が出来るにこした事はねぇがこの騒ぎは異常だ。たかだか模試で一位取ったから何だって言うんだ。そうは思わねぇか」

「同感ね。でもまさかその台詞あんたが言う?全国一位のトラファルガー・ロー君」

「はっ…俺は事実を言ったまでだ。周りがギャーギャー騒いだ所で俺には何の得にもならねぇ。そもそも学校という名の大所帯の組織にはうんざりしてんだよ」

「ほーお。なるほどなるほど。優秀すぎるってのもある意味可哀想ね」

「そりゃお前も一緒だろうが。さっきも一人男が嘆いてたぜ。ミョウジにやられたってな」

「あら心外ね。自分に気がないならいっそ振ってくれと頼んできたのはあっちなのに」

遠くで予鈴が鳴り響く中、互いに無言のまま見つめ合う。……いや、見つめ合うと言うには語弊がある。睨み合う、と言った方がしっくりくるかもしれない。兎に角二人してその場に立ち尽くすその様は何だか不気味で逆に笑ってしまいそうだった。

「で?話し掛けてきたからには私に何か用?もしそうなら手短に済ませて貰えると嬉しいんだけど」

「馬鹿言え。お前になんざ用はねぇよ。俺はそのお前の隣にある扉の中に用がある。邪魔だ退け」

「扉?……あぁ、これは失敬。どーぞ、全国一位様」

チッと軽く舌打ちをして、ようやく壁から身を離した男はガラガラと扉を横にスライドさせて中へと姿を消した。一体何だと言うのか。その行動が気になり、頭上にある教室の看板をチラりと見上げて目を丸くしたままふっと口角を上げる。

「なるほど、そういう事ね」

そう一人呟いて踵を返す。看板の正体は図書室だった。何だかんだ常に努力を惜しまずその分人一倍勉強をしているって訳ね。そんな事を一人考えつつも来た道を戻る。さっき悪友から貰ったカラフルな飴玉をスカートのポケットから一つ取り出し、コロコロと口内で転がしながら。




「ミョウジさん、好きです!俺と付き合って下さい!」

あのトラファルガーと軽い言葉を交わしてから数日経ったある日。いつものようにこれといって仲の良い友人がいない私は、授業をサボり自販機の前で紙パックのジュースを購入していた時の事だ。やたら大きな声で叫ぶように愛の告白をしてきた見知らぬ男子生徒を前に内心またか、と呟いて溜息を吐く。そしてこの後の台詞はほぼ毎回同じで変わり映えがない。

「いーよー。じゃあ付き合っちゃおっか」

「えっ…!まじで!?いいの!?」

「うん、全然いーよー。……あー、でも私君の名前知らないんだけど」

「あ。そ、そうだよね!ごめん!名前も知らずにいきなり告ったりして。俺の名前はー…」

「………………」

首に手を添えて頬を赤く染めつつも必死に自分の名前とプロフィールを口にしだした目の前の彼を無心でぼんやりと見つめる。適当に相槌をうちつつもさっき購入した紙パックのジュースにストローを挿してズズーっと勢いよく吸うと、彼の声は更に私の中で遠くなっていった。

「いやでも本当に勇気出して告ってみて良かったよ。ほらミョウジさんって最近彼氏と別れたばっかだったでしょ?だからまぁ上手くいく可能性は低いって思ってたから俺余計うれし」

「ねぇ、私の何処がそんなに好きなの?」

その言葉に何か特別な意味なんてなかった。もっと言えばそれを聞いて真面目に答えようとする彼自身にも興味がなかった。ただ何となく気になっただけ。本当にその程度の事だ。

「ど、何処って言われても…全部、かな」

「全部?」

「うん、全部。……あ!でもあえて言うならミョウジさんって独特なオーラがあるからそれが一番の理由かもしれないな」

「独特なオーラ…」

「そうそう、何かよく一人でいるじゃん?廊下でも教室とかでも。俺隣の隣のクラスだからわざと休憩時間とかにミョウジさんのクラスの前まで行ったりよくしてたんだけど、こう…何て言うのかな。何か俺が守ってあげたい!って思わせる何かがあるんだよね!」

「………ふーん、そっか」

「あ、て俺キモいね!まじごめん!」

「んーん。嬉しいよ、ただ単純に。ありがとう」

素直にそう思ったから返事をしたけど、彼にとってはその一言が重かったらしい。真剣な顔付きで徐々に徐々に私との距離を縮めてきた彼は自販機に手をつけ、チュ、と小さなリップ音をたて私にキスをした。

「ミョウジさん…好き。俺本当に好きだからミョウジさんのこと。大事にする」

そう言ってクシャリと頭を撫でた彼は携帯の連絡先を交換して自分の教室へと去って行った。彼に触れられるのは嫌じゃない。もしかしたら今回こそは本当に好きになれるかも。そんなもはやただの願望でしかない想いを胸に、飲みきった紙パックをゴミ箱に投げ捨て歩を進めた。向かう先は決まっている。何故か今その場所に無性に行きたいと思ってしまったのは、らしくない考えを張り巡らせたせいなのだろうか。




「失礼しまーす」

カラカラ、と緩く扉をスライドさせて足を踏み入れた場所はシンとした図書室だった。授業中という事もあり、より一層静かだなとふと思う。ドアに手をつけたまま左右に視線を動かせば、誰も居ない筈の教室内にある一点、隠しきれていない細長い影を見つけてズカズカと正体に迫る。

「みーつけたー」

本棚に寄りかかったまま分厚くて難しそうな本を手にしていたそれを勢いよく前から奪い取る。ニコッと笑う私とは真逆に眉間に皺を寄せてギロりとこちらを睨みつける男と目が合った。こんにちは、と軽く挨拶をしてみたが何のその。返事を返して貰うどころか心底不機嫌そうにチッと舌打ちをされてしまった。でもそんなの屁でもない。めげずにストンと彼の隣に腰を降ろしてパラパラと手元の本へと視線を落とし「ねぇ、」と声を掛ける。

「あぁ?」

「トラファルガーってもしかして医者でも目指してるの?これって医学書だよね?」

「何でそんな事俺が答えなくちゃならねぇ。お前には関係ねぇ話だろうが」

「うん。でも気になるから。凄いね、もうこの歳で夢が見つかってるなんて。私にはそんなはっきりとしたビジョンなんてないからさ。ただ単純に良いなって思って」

風通しの良いここ3階はとても呼吸がしやすい。少しだけ開け放たれた窓からそよそよと降り注ぐこの感覚が堪らなく好きだ。まるで自分の汚い物を何処か吹き飛ばしてくれそうな気がするから。

「……あ、そうだ。さっきまた新しい彼氏が出来たんだ私」

「へぇ、そりゃ良かったな。どうせ直ぐ別れるくせにお前も懲りねぇな」

「んーん、今回は何かイケそうな気がするんだよね。彼氏私の事大好きなんだってさ」

「そりゃ好きでもねぇ女にわざわざ告白なんざしねぇだろ」

「じゃなくて、大事にするって言ってくれたから」

「………あぁ?」

「言って、くれたから」

「………………」

その瞬間、ザザァと強く木々が揺れ動く程の大きな風が吹いた。私達二人が座るこの場所にまで辿り着く程のそれはそれは強い風で、一瞬で髪が乱されてしまう。これ以上風に悪戯されないようにと手で髪を直していると、隣に座るトラファルガーに木々の影が覆いかぶさる姿が目に留まった。なるほど、確かに周りから騒がれているのも何となく分かった気がする。きっと少なからず何処か影があるんだ。彼も、そして私も。

「お前、大丈夫か?」

「…………え?」

「頭」

「………………」

意味が分からなくては?と聞き返せば、「だってそうだろ」とトラファルガーはその場を立ち上がり、こちらにゆっくりと踵を返したまま彼の藍色の瞳が真っ直ぐと私を捉えた。

「大事にしてくれるって自分の女だったら当たり前の事じゃねぇか。今までどんだけクソみてぇな奴と付き合ってきたのかは知らねぇが自分を安く売りすぎなんじゃねぇのお前」

「………………」

「まぁ、それで良いなら知ったこっちゃねぇが。もっと自分を大切にした方が良いんじゃねぇか」

乱された髪が元に戻ったと思ったら今度は別の個所が激しく乱された。その答えは私の心、というか私自身だ。別にトラファルガーは何一つ可笑しい事なんて言ってない。いや寧ろ正論だ。なのに何でだろう、こんなにもやるせない気持ちになってるのは。

「つーかお前いつまでここに居や」

「だって仕方ないじゃん」

「…………あ?」

「誰も私の本当の根っこの部分を見てくれようとはしなかったんだもん。……仕方、ないじゃん…っ」

「………………」

……何、泣いてるんだろう私。泣く理由が自分でもよく分からない。でももう今更引くに引けない。まるで決壊が壊れたように次々と溢れ出てくる涙が情けなくて、でも何処かスッキリしていく感覚もあって思考と感情はグチャグチャだ。その場に蹲ったまま幼い子供のように泣き崩れている私を見てトラファルガーは一体どんな顔をしているんだろう。

「別にそんな自分を責める必要なんざねぇだろ。……あー、何だ。その悪かった。特に悪気があった訳じゃねぇ」

「うん…分かってる。私の方こそごめん、本当は自分が一番分かってるの。こんな事繰り返した所で答えなんて出ないって。誰からも本気で愛されないって」

「……………」



『あーいうタイプの女はさ、本当に好きな男からは相手されないタイプだよ』



……分かってるからそんな事。だから放っておいてよ。どんなに可愛いだの好きだの言われた所でどうせみんな離れていくのは自分が一番理解してんだから。好き=付き合う=幸せなんかじゃない。そんな方程式誰が決めたの。私が求めてるのはそんなのじゃない、もっともっと違う場所にあるんだか…

「ら!!って、いったぁぁぁぁあああ!!はっ!?痛っ!!何いきなり!?」

「おい、てめぇ何また被害妄想してやがる。勘違いしてんじゃねぇよ」

「は、はぁっ…!?別に何も勘違いなんかしてな」

「人を本気で好きになった事がない奴が、誰かに本気で好きになって貰おうなんざお門違いなんだよ馬鹿」

「ば、馬鹿…!?」

泣いてる私を慰めてくれる所かまさかのチョップで私の思考を遮ったこの目の前の男は、あろうことにもヤンキー座りで「馬鹿」と毒を吐いた。軽くとはいえこの男やっぱり容赦ない。ていうか普通に痛いんですけど!ジンジンするんですけど!

「悪いことは言わねぇ。その男とはさっさと別れろ」

「なんで!」

「当たり前だろうが。いつまでも自分を好きにならねぇ女なんかに拘束される奴の身にもなってみろ」

「こ、拘束って…何でそんな事断言出来んのよ。そんなの分かんないじゃん」

「いや分かる。何故ならお前の100倍モテるこの俺が言うんだから間違いねぇ」

「さっ…!最低…!!」

こいつ確信犯か!とか思いつつ妙に説得力があるその理論に私は内心驚いていた。きっとさっきの彼とこのまま付き合っていっても多分何の問題もないし、自分が想像しているよりも遥かに私の事を大事にしてくれる、とは思う。…思うけど。

「それに、お前はもっと自分から本気で好きになれる男を探せ。一回本気で誰かを追いかけたらきっとそのくだらねぇ考えはしなくなる」

この男の考えにちょっと共感出来たから、やっぱりサヨナラだ。ごめん、こんなどうしようもない私を本気で好きになってくれたA君。(結局名前覚えられなかった)


いつかその時がきたら、この試験結果を君にも報告しにいくよ。



「誰もそんな事望んでねぇと思うけどな」

「トラファルガーって本当ひねくれてるよね」

「でも好きだろ?」

「はぁっ…!?」

(これ以上他の男に捕られて堪るか)

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