お嬢様の思惑
私は今日、一通の手紙を残し家を出た。
それはいつもの事。
ただ一人、一番来て欲しくて来ないで欲しい彼を待つために。
私はとある財閥の一人娘。
ある日縁談のお話が来て向かった先に彼はいた。
唯我独尊を体現したような男を主人に持つ一介の使用人。
それが彼。
一目で私は恋に落ちた。
でも彼と結ばれることは有り得ない。お父様が使用人何かとの婚姻を認めるわけが無いから。
だからただ彼の傍に居たいだけで私はその縁談を受けた。
引き受けた男も私の家柄にしか興味はないようで私を気に掛ける様子はなかった。
彼を独占してこき使うあの男から引き離してあげたくて、そしてせめて心だけでも結びたくて私は家出する。
書き置きを見付けた彼は私を捜してくれる。男に尽くすそのほんの僅かな隙でも私を考えてくれる。
それがいつか私の事を愛してくれる切っ掛けになると信じて、私は待つ。
このまま二人で駆け落ちする夢を見て。
「お嬢様っ!」
いつもの様に彼は迎えに来てくれる。
「やはり此処に居られたんですね」
息を切らし私の元に来てくれた。
そう。彼が私を見付けやすいように、そのまま何処かへ行ってしまえるように私はいつも駅のホームで待っている。
会いたい、触れたい相手。
でも彼が来たことは家出の終わりでもある。
「帰りましょう。ご主人様がお待ちです」
「ええ、分かったわ」
今はまだ一方通行でも。それでいい。
彼が振り向いてくれるまで何度でも待つから。
帰り道、今はそれだけが二人で居られる、私だけが独占できる時間。
end
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