世界が終わるまでの七日間

「世界があと一週間で終わるとしたら、鬼灯様はどうなさいますか?」
「何くだらないこと考えてるんですか。そんな暇があったら仕事してください」
「痛っ」

思いっきり飛んできた文鎮を掠め、ヒサナはずきずきと痛む頭を抑えて涙をこらえた。

「それ頭にダイレクトしてたら死にますよね」
「あと7日で死ぬのならあまり変わらないでしょう」
「例えばの話ですよ!」

長く生きている私たちにとって、あっという間の慌てる暇もない期間だと鬼灯は呆れたようにため息をついた。
確かに7日間なんてあっという間にすぎるものだ。
でももしも、余命みたいに世界の終わりが宣告されたとしたらどうするかなんて、一度は誰しも考えるんじゃないだろうか。

「普通に仕事をして、普通に徹夜してるんじゃないですかね?終わるとしてもその7日間は普通に来るわけですから」
「…なんの面白味もない考えですね」
「面白さを求めてたんですか?」
「一般回答を述べるとしたら、全財産使い果たして豪遊するとか、今までできなかったことをするとかなんですよ」

だから鬼灯様はどのタイプなのかなと思ったまでですと頬をむくれさせて背を向けた。

「ちなみにヒサナさんはどうなんです?」
「私ですか?今すぐ仕事放り投げて某ランドへ行ったりとか仙桃もぎ放題とかしますよ」
「阿呆の考えは阿呆だとはよくいったものですね」

鬼灯が呆れたようにため息をついた音が聞こえた。
例えばくらいちょっと考えてみてもいいじゃないか。それこそ毎日同じことの繰り返しでこの長い鬼生やってられないんですよ。

「普通が一番幸せなことだと思いますよ。特に慌ててしなければならないような事を残している、後悔するような生き方はしておりません」

成る程確かに。思い立ったらすぐ動いてるお人だもの。
そう一人納得しかけてそうですかと背を向けたまま話を聞いていれば、ああと鬼灯様が言葉を続けた。

「そういえば一つ、しなければならない事はありますね」
「えっ何ですか?」

気になる話題に食い付き、急いで振り返ってみるも鬼灯様はこちらをもう向いておらず、分厚いファイルに視線を落としたまま続けた。

「ヒサナさんを殺して最期を迎えます。世界に殺されるくらいならこの手で摘み取りますよ」

しばしの沈黙の間に書簡を折り畳む音が響く。
どんな顔をしているのかはその俯いた顔からはわからない。
室内に紙ずれの音だけが静かに響く中、どれだけ思われているのか未だに掴めないなぁとヒサナの乾いた声が笑った。

20140707

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