「あ、あのね、スクアーロ…私ちょっと相談があるんだけど」

珍しく暇を持て余していたらしいスクアーロに近寄ると、スクアーロは首をかしげてソファの隣を開けた。まあ座れということだろう。お言葉に甘えて隣に腰かける。


「で、何だぁ相談ってのは」
「絶対内緒にしてくれる?」
「俺も男だ」
「ありがとう。…実は私さ、ベルのこと」

そこで私とスクアーロははっと顔を見合わせ、お互いソファから飛び下りた。すると数秒前まで私達が座っていた場所には数本のナイフがブッスブスと深く刺さっていた。


「お前ら何?王子の悪口言ってんのー?」

「う"お"ぉ"い!!ふざけんなベル!テメェの悪口ならテメェに直接言うに決まってんだろぉ!」
「煩い、カス鮫」
「あんだとゴラァ!!」
「王子わりと地獄耳なんだよね。名前聞こえたし」
「知るかぁ!俺は今こいつの相談乗ってただけだ!」
「相談?」
「テメェが来たせいでまだ何も聞いてねーがな!」
「…ふーん」
ベルの手が私の腕を引く。(や、ばいやばいやばい!今、絶対あかい)



「…なあ」
「あ、な…なに?」
顔を覗きこんでみる。どんだけ険しい顔してんだと思ったら、意に反してその白い頬は真っ赤に染め上げられてて拍子抜け。あり?
「お前熱あんの?」
「な、ないよ別に」
「こっち見ろよ」
「いや、ちょっと無理」
「…」
「…」
「…しし。スクアーロ、こいつ俺がもらってくな」
「はぁ!?う"ぉ"い!」
スクアーロの声を後ろに聞きながら細い手首を引っ張る。え、とか、ちょ!とか言ってるけど知んねーし。
廊下に出てすぐに向き直る。あからさまに飛び上がる肩。


「王子の名前出してスクアーロに相談事とか、何」
「わ、悪口じゃないよ」
「じゃあ何?」

いつもクールじゃんオマエ。俺がどんなに激しいスキンシップしたって動じねーし。俺も正直お手上げだったんだよね。
それが何?この夢の反応。
顔は真っ赤だし、目は合わせねーし、どもりまくってるし。何それ。俺期待すんだけど。

「何って…なんでもない」
「オイ」
「それより、ベル、手」
「?」
「は、はなして」そう訴える様子を目の当たりにして確信。


「好きなんじゃね?」

「…は?」
「お前も」
「…」
「…って、ちげーの?」
「はあ。何言ってんだか。私がベルを好き?あはは、うける」

いつもの調子で笑ったかと思ったら、またいつもの調子でくるりと背を向けられた。俺達が話していた場所はこいつの部屋の直ぐ傍で。

「あ、私明日任務早いからもう寝るわ」

さっきの恥じらいようが嘘のように軽い調子でそう言って部屋に戻ってしまった。俺は一人廊下に取り残される。
しかし俺はキレなかった。
アイツの部屋の前に行き、扉に耳をくっつける。


うわあああああ、何でバレちゃったんだろ!
私昨日自分の気持ちに気付いたばっかりだったのに!もうバレた!あ、でも…ごまかせたかな。
恥ずかしい、はずかしい!
気付いたら今までふうーにやってたことできなくなってきたよ!
どうしようどうしよう!!


――耳くっつけるまでもなかったな。ってか、
「やっぱお前もじゃん」
ベルはしししっと歯を見せて笑い、その薄く意味をなさない扉を蹴破るために足を持ち上げたのだった。

箱の中のまどろみ
(じゃーん、王子再登場)(うわああ!!)

1208 企画「ブルータス、お前もか」様 提出