「苗字名前だな」「はい」「お前は腕のたつ殺し屋だと聞いた」「そうですとも」「なんでも気配をまるきり消せるとか」「お茶の子さいさいですとも」「ならイタリアにあるこの組織の、XANXUSという男を消して来い」「いやですめんどくさい」「ふざけんな。この額でどうだ」「お名前お電話番号お住まいをどうぞー!」


そんなこんなで、自称ジャパニーズ・マフィアな私は飛行機に飛び乗って(コナン君はこれを"とぶきょだいな鉄のカタマリ"と言った。うまい事を言うなと思った。)イタリアにあるヴァリアーという組織のXANXUSという男を消しに行く旅に出た。空港の危険物にピーと反応するアレの存在をギリギリまで(ピーの機械の3メートル手前まで)忘れていた私の焦りようって言ったらハンパない。何とかそれを潜り抜けて日本を離れる。さらば我が故郷。名前、行ってきまーす!――次に私が踏んだのはイタリアの地。ビバ・イタリー!おっといけない観光に来たわけじゃなかったんだった。

仕事モードに入った私の動きはきっと常任にはまねできない。はずだ。できたらちょっと泣いちゃう。

まずは持ち前の愛想の良さでゴツい監視の男の人達に挨拶をし、またも持ち前の運動神経で正面の門を飛び越える。綺麗に整備されていた白い砂利(はじめてみた!)を散らしながら大きな玄関の前に躍り出た。ここで暗殺ポイント!ててーん!
扉は開け閉めの音で敵に自分の存在を認識させてしまう。大切なのはスピードだ。ガチャ!バン!見たか私のこの速さ。開けるの1秒、閉めるの1秒。うーんパーフェクツ。あ、なんかここ玄関のくせに靴置くところないな。でもこんな綺麗な絨毯を土足でなんて心もとない。黒くてカッコいいブーツは玄関の脇に置かせてもらった。
私は白い靴下で慎重に階段を上っていった。
ここで暗殺ポイントその2!ターゲットの部屋を確認すること。彼らに存在を知られるとまずいから慎重に事を成す必要がある。私はまず階段に一番近い部屋の扉を二回ノックし、廊下の曲がり角まで走って隠れた。ドキドキ。出てきたのは派手なモヒカンの男の人だった。写真で見せられた顔とは違う。モヒカン男は首をかしげつつ「へんねー!きのせいかしらん」と部屋の中に再度引っ込んでしまった。彼は彼ではなく彼女だったようだ。

「よし、なんか調子でてきたぞー!」

この調子で残りの部屋も全部調べちゃおう。…いやでもしかしこの屋敷でかいな。部屋なんこあるんだろ。まあいいか。それよりさっきから黒いスーツの人達がバタバタ慌ただしく走り回っていて迷惑きまわ、きわりま、…?き・わ・ま・りない?うんそれだ。極まりない。廊下は走るなと先生に教わらなかったのだろうか。
「侵入者です!スクアーロ作戦隊長!」
「なにい!?どこから入ってきやがった!?」
「正面門扉と玄関から入られました!」
「なんだとぉ!?」

すくあーろさくせんたいちょう、あなた声煩いですよもっと静かにしましょうよ人生長いんだから。私は目の前を行き去っていく二人を屈んで見送りながら、小さく溜息を吐いた。
それにしても、正面玄関から入るとかバカだなそいつ。


***



「う…手の甲の…ゴツゴツしたところが痛い」
当たり前だ。私はもうかれこれ3時間以上は屋敷中を歩き回ってはノックして中の人を調べるという作業をしていたのだから。数にしてもう280コンコンだ。一部屋につき2コンコン。そりゃ痛くもなるっての。
ここが最後の部屋だ。これ以上上に階が無ければ、の話だけど。もし屋根裏とかあったらそこがラスト。しかし組織の重要人物を屋根裏に住まわすことなど無かろう。思いつつ私はその部屋をノックし、廊下の死角に身を縮めた。しかし一向に中から人が出てくる様子はない。私は留守かと項垂れ、念のためその中を覗いてみた。ガチャ。まず目に入ったのはフッカフカのベット。

私はもう幾多の試練を乗り越えここまできたんだ。そろそろ報われてもよさそうなものだ。
「…五分だけ」
私は誘惑のベットに沈み込み、襲いくる眠気に耐える事もせずベットに膝をついた。順番に、体も倒れる。やっぱり5分は無理、10分にしよう。私は見ず知らずの部屋でとても良い眠りについた。




「…オイ」
「……」
「起きやがれ、ドカス」
「…んぅ」
待ってよ今アンドレーヌちゃんがジョバンニを追いかけていくところなんだから。がんばれ、アンドレーヌ今行けばまだ彼のハートは君のもの(―――ゴン!!)
脳内で火花が散った。脳天にクリティカルヒットした拳のあんまりの痛さに悶えながら、恨みがましくその人物を見上げる。私の素敵な夢を邪魔したやつは誰だコラ!…あ。

「…XANXUSさん?」
「…誰だてめぇは」

私は瞬時に脳内の整理を始めた。目の前にいるのは間違えようもなく今回のターゲットのXANXUSさん。そして寝ていた私。起こされた私。なぜ?それは簡単。ここはXANXUSの部屋だったのだ…!!

「オーマイギャー!!」
「煩ぇドカス」
「げふ!ま、また殴った!」
「何故てめぇのようなガキが俺の部屋にいる。どこから入ってきやがった」
「ガキじゃありません18歳ピッチピチのジャパニーズマフィ……あれ?XANXUSさんどうして日本語を…?」
「テメェの寝言が日本語だった」
「なーるほ、うわあ!」

突然飛びかかってきたXANXUSさんは私の両腕を片手でまとめ上げてベットに押し付けた。こめかみに宛がわれた銃口を意識し始めてようやく、私は自分の置かれている危機的状況を認識した。


「何が目的だ」
ドスの効いた低い声に、私は一気に震え上がった。あなたを殺すことでーす★なんて言える雰囲気では到底ない。そうだ昔抱かれた女という設定で行こう。女スパイは総じて色気があるものである。

「やだ、忘れちゃったの?あの熱い夜のこ・と」
「お前のような色気皆無なガキを抱いた覚えはないくたばれカス次嘘言いやがったら殺す」
「ごめんなさい調子に乗ってごめんなさい」
「吐け」
「殺しに来ました。あなたを」

引き金にかかったXANXUSさんの指が動くのが見えたから、手を無理やりほどき目の前にある首に抱き着いて避けた。あぶねぇ危機一髪。今の一発のおかげで髪の毛がちょっと焦げた。ショートでよかった。
無言のXANXUSさんがカチャリと今度は私の背中に銃口を押し付ける。ちょうど心臓の裏側だ。これはもう避けようがない。どうしよう。私は首に回した腕に力を込めてなるべく体を密着させた。願わくば、私を貫通した銃弾がXANXUSさんをもぶち抜きますように。言い忘れていたが私、生への執着はあんまりない。


「お前、殺し屋か」
しばらく無言が続いたかと思えば、ふいにXANXUSさんは尋ねてきた。

「はい。ゴルゴサーティーンです、えっへん」
「誰に雇われてきた」
「それは…言えません」
「命を助けてやると言ったら」
「…ごめんなさい、私、お金貰っちゃったので」
「その3倍出す」
「う…うぐ…さんばい。3倍……だめです私腐っても殺し屋です、から」

3倍はズルい。この決断を下した時血を吐くかと思ったよまったく。(でも)あーあ、私の人生もこれまでか。腕、そろそろ疲れてきたな。

「…」
「…」
「…あの?」
「興が覚めた」
「わふ」
銃口が背中から離れていくのが分かった。私はベットにリターン。分けが分からず困惑顔でXANXUSさんを見上げた。何だこの人…興が覚めたって?私を殺すのをやめたのかな。

「正面玄関から侵入したってバカはお前だな」
「え?…あ!あそこ裏口じゃなかったんだ」
「ドカス。侵入・脱出経路は事前に調べとくもんだ。もちろんターゲットの部屋もな」
「すいません…」
「それと侵入先で居眠りこいてんじゃねぇ」
「ご…ごもっとも」
「武器はどこだ」
「えっと…ポケットに」
「これか」
「はい」
「もっと取りやすいとこに入れろカス。これじゃあ手塞がれたら終わりじゃねぇか」
「そ、そっすね。でも私実はブーツに隠し刀仕込んでて…」
「?」
「ブーツ玄関だ」
「テメェ何しにきやがった」

私は思った。――私って殺し屋向いてない。わたしが殺し屋として誇れるのって気配を消せることくらいだ。…といっても影が薄すぎて誰にも気づかれないだけなんだけどね。でも今まではそのおかげで何とかやってこれていたけど、今日自分の無力さを実感した。よし殺し屋やめよう。お花屋さんになろう。

「あのう、XANXUSさん。私帰ってもいいんでしょうか」
私はクローゼットから服を取り出しているXSNXUSさんにそう尋ねた。「易々帰すと思うか」だって。そりゃそうか。お花屋さんになろう計画は諦めよう。


「テメェは殺し屋として重要な部分が9割欠落してる」
「例えばなんです?」
「緊張感。慎重さ。思慮深さ。警戒心。危機感。殺しのスキルその他もろもろ」
「グサグサーッ…の、のこりの1割は…?」
「瞬発力と影の薄さだ。来い」
「え、ええ!どこに」
「お前はこの俺が雇う。…鍛えてやるっつってんだ」

何だろうこの流れ。殺されないのは分かったけど、何で鍛えて貰う話になってるんだろう。心底謎だ。

「鍛え上げたお前の最初の任務は、お前を雇った男の始末」
「ちなみに報酬は?」
「ねぇよ」
「そんなっ」
「かわりに技術をくれてやる。てめぇはヴァリアーに入り、俺の手となり足となって働きやがれ」

――何て横暴なんだこの男!私が信じられないものを見る目で見ていると、鼻で笑われた。
いやでも…待てよ。ヴァリアーに入れば少なくともお給料は貰えるはずだ。ならまーいっか。強くもなれると言っている事だし。

「衣食住を保障してくださるなら、ヴァリアーに入隊してもいいですよ」
「あ?条件出せる立場か、テメェは」
「こう見えて私射撃の腕はいいんです。XANXUSさんともいい勝負できると思いますよ」
「…言いやがる」
「本当なんですって。ただ、銃を握るまでの動作とか行動が若干アレなだけで」
「ぶはっ!それが致命的だってんだよ」
「な!わ、笑うなんてひどい」
「フン…いいだろう。保障してやる」
高慢ちきにそう告げられた。ただし使えねェと判断したら即殺す。だって。怖!
ともかく、これで交渉成立だ。私はコートを羽織って扉に向かうXANXUSさんの背中を追いかける。


「名前です。よろしく、XANXUSさん!」


間抜けな殺し屋

(なんだか、面白いことが起こりそうな予感がします!)
(フン…せいぜい俺を楽しませろ、カスガキ)