「好きだよ」


「私も」


「愛してる」


「私の方が愛してる」

使い古されたお決まりの台詞たちを、私はそれでも何度も何度も使う。
好きでもない男の腕に抱き着いて、空っぽの笑顔で彼を見上げて、好きだよ。私も。愛してる。私の方が愛してる。何度も何度も何度も

ブシャ

私は男の心臓を貫いた刀を一気に引き抜いて、じわじわとシーツに広がる赤を眺めた。
好きだよ、だって
愛しえる、だって
こんな私のことを好きで愛してしまってかわいそう。私はあなたが好きでも愛してもいないのに。適当に相槌なんて打つもんじゃないね。なんか、ごめんね。


私は重い体を引きずって屋敷に戻り、報告書を手にボスの部屋に向かった。
こんなに疲れているのに、足取りは軽い。
ボスの部屋の前に着き、私は手ぐしで髪をなおしてからノックした。

「ボス?」
「入れ」


「ただいまー」1か月ぶりのヴァリアー。1か月ぶりのボス。
ボスは相変わらず1か月前のままいつも通りの無表情だったけど、私の胸はそれでもドキドキ煩かった。

「情報は引き出せたか」

「うん、もーばっちり」

「よくやった」

「…えへへ」ボスに褒められるのはやっぱりうれしい。
わたしが唯一レヴィに共感できるのはここだけだ。
手渡した書類に目を通すボス。私はこそこそと机の反対側にまわりボスの傍に膝をついて、ぴとっとボスにくっついてみた。ドキドキするしムズムズする。

「ボス、好き」

「…」

「ボス、愛してる」

「…」

「ふふ」


何も言葉を返してくれないボス。言葉足らずなボス。口下手なボス。不器用なボス。聞きなれて言いなれた常套句なんて、ボスの前では必要ない。
ボスの手が私の頭を撫でる。
もうあたし死んでもいーや。なんて、結構本気でそう思えるよ