「おーい起きろー、このねぼすけさんめー、呪い殺しちゃうぞー」
「…」

昨日の晩は帰りが遅かった。一晩のうちに組織を一つ潰し後処理をし、アジトに戻ってからは書類相手に何時間も頭をひねった。結局ベットに入ったのは明け方近くという事になる。今日は久々の休日だ。存分に寝てやるという俺の計画をブチ壊す奴は俺がブチ殺す。ということで、俺は剣をその相手の心臓に突き刺した。情け?容赦?知るか馬鹿野郎。


しかし、薄目を開けて確認しても刺さっている事は確実であるのに血が出ていない。さてはこれは夢なのか。もしくは幻覚…フランの野郎後でとっちめる。

「ざーんねん、夢でも幻覚でもありませんよー」
「…誰だ」
「知り合いかそうじゃないかも確認しないで刺すなんて、酷いと思いませんかコラ」

寝起きの俺の突きを避けられねぇカスなんてヴァリアーにはいねぇ。するとどのみち死ぬのは外部の人間という事になる。こいつもそうだ。うちの隊でも他の幹部の部下でもないこいつはもれなく部外者。しかし死なねぇ。ああうぜぇ、目が冴えてきやがった。


「気配もねぇ。刺しても死なねぇ。…殺し屋か?誰の差し金で来た」
「ちょっとオニーサン。話まとめんの早すぎでしょ」
「…あ?」
「わたしは誰かに言われて来たんじゃなくて、自分の意志で来たんだよ」

枕元に立つ、心臓に剣が刺さったままの女は続けた。

「気配がない?刺しても死なない?そりゃ当たり前」
「どういう意味だ」
「だって私、幽霊だもん」
「…は?」
「幽霊だもん」

どうやら頭がイカれているらしい。俺は女の心臓から剣を引き抜いた。その際に傷口から溢れる鮮血をイメージしたのだがそうなることもない。おかしい。どうなってやがる。

「だから幽霊なんだって。わかる?オバケ!ゴースト!」
「ンなもんいるかぁ!」
「いるやん、あなたの前に」

俺は次は剣を振り下ろして体を一刀両断してみた。しかし剣は空気を裂くようで、腕の負担は一切ない。「サイテー」と声を漏らしたのは女だった。

「声をかけただけで刺すわ斬るわ、どういう神経してんの」
「…幻覚じゃねぇって証拠は」
「しかもまだ疑ってるし」
「当然だろうが!そう易々と信じられるか」
「こんな中途半端な幻覚見たことある?よく見てよ私ほら!半透明じゃん」
「…」

確かによく見てみれば、女の後ろにある絨毯がうっすらと透けて見えた。最後に足掻く気持ちで女の腕を掴んでみれば
「触れんじゃねぇかぁ!」
「んー。それは何でだろうね」
「…!!」
触れたには触れたがすぐに離す。底冷えするような寒気が背筋を駆けあがり嫌な汗が額を滑る。―――死人の冷たさだ。そんな俺を見て女は妖しく微笑んだ。そして囁く。甘く、低く、地の底から競り上がるような声で

「呪ってやる」

スクアーロは思った。もしかして、昨日潰した組織に関わる女だったのだろうか。俺が斬った人間の数はもはや数えきれねぇから覚えちゃいないが、その中には何人か女もいたはずだ。
それを裏付けるように「昨日の晩」と女は小さく口を開いた。

「あるホテルが全焼したわ。あたりに木霊する…断末魔の叫び。路地一帯を照らす業火の炎…」
「…やはり、お前は」
「そう」
俯く女を前に、俺は剣を握り直した。ただの霊なら何の害もないが悪霊なら…どうだ。
人ひとり呪い殺すくらいわけないのだろう。

「私は死んだ…あの晩っ」
「、」
「あの燃えるホテルを見て驚いたタクシー運転手に挽かれそうになっている猫を助けようとしている素敵な男性に目を奪われて!」
「………は?」
「私のこいでいた愛車・チャーリー5号は電柱に激突したわ!」
「…」
「頭の打ち所が悪った私は即死。私が最後に見た景色は、素敵な男性だと思ってたあの人が実は中年超えたオッサンだったって現実よ…!許さない、許せない……呪ってやべふーっ」
「それまったく俺関係ねェじゃねぇかああああ!!!」

キレたスクアーロのゲンコツをまともに食らった女悪霊・名前は呆気なく意識を失った。
青筋を立てたスクアーロは頭を抱えた。すっかりどこかへ吹っ飛んでしまった眠気を惜しみつつ目の前の、気絶しても成仏しそうにない幽霊をこれからどうするかを考えると胃がキリリと痛むのであった。
(ああ、俺のなけなしの休日が)

アホな悪霊と暗殺者の出会い


(おっはよーん!ということで、私今日からあなたを目一杯呪いますから!よろしくまんぼー)
(う"お"ぉ"い!!!ふざけんなぁああ!)

1118 続きそうで続かない\(^o^)/