「2012年だね、ベル」

「だから何だよ」

「さーて、今年最大のイベントは?」

「地球が滅びる『かもしれねー』んだろ」

「ピンポンポンポーン」

向かい合わせに置いてある座り心地の良いソファにベルと二人寝っ転がる。
行儀が悪いってルッスーリアには怒られるけど、彼女は今任務だから人の目を気にする必要もない。
私達はそのまま内容の薄い会話を続けた。


「しし、王子の誕生日祝いながら人類滅びるとか理想じゃね?」

漫画のページをめくりながらベルは言う。
奴独特の笑い声が、今日は何故か耳につく。

「理想じゃないじゃん。結局ベルも死んじゃうんだから」

「別にイイし」

「え、何それ。ベルなんか変なモン食べた?」

「何でだよ。サボテンされてーの」

「や、だって『王子は生きるから大丈夫〜』とか言いそうじゃん」

ベルは生に執着がない男ではなかったはずだ。
本を飛んできたナイフの盾にしたら背表紙に亀裂が入った。萎えた。

「流石に無理だろ」

「…ボスならいけそうな気がする」

「ボスよかレヴィだな」

「ああ」
妙に納得していると、つーかさ、とベルは話を戻した。

「お前は生き延びたいわけ?」

「できればね」

「フーン」
聞いといてつまらなそうなベル。

「でもま、私以外が本当にみんな死んじゃってたら死ぬだろうね」

「結局かよ」

「ベルもいないし」

「…しし」

「それにしても、人類滅亡の原因は何だろうね。つーか何で今年?みたいな」

隕石衝突かな?地球外生命体の侵略?温暖化?それともまさかの氷河期再到来とか。
どれでもいいけど、痛いのは嫌だなあ。
散々人を傷めつけながら殺してる人の言うことじゃないと思うけど、私は切実に安楽死希望だ。

「さーな。…ま、地球にも他の星みてーにドドーンとハジけたい時があるってこったろ」

「えーそんなきまぐれ?」

「そんなもんだろ」

「まあ、気持ちは分からんでもないけど。今まで築いてきた文化やら科学やらもろともバーンて……心中もいいとこだよ。もったいない」

「でた。ジャッポーネ特有、モッタイネー精神」

「バカにすんなよ」

「しししっ」

不貞腐れた私を、ベルが手招きして呼ぶ。私はのっそり起き上がってベルのソファに近付いた。
体を起こしたベルが自分の膝を指す。(…座れと)

「ちげーよ」

「?」

「コッチ」

体の向きを変えられて、ベルと向かい合わせの体勢になる。
いつも以上に近くにある綺麗な顔に、素直な私の心臓はピクンと跳ねた。


「ここ集合な」

「…崩れてるかも」

「瓦礫の上でいーじゃん」

「任務あったら?」

「放置」

「スクアーロが煩いよ」

「放置」

「途中で道におばあさんが倒れてても?」

「放置」

「…」

「どーせ皆死ぬんだぜ。マフィアもカタギも、悪党も聖者も、暗殺者(おれたち)も」

「…ベル」

「俺から離れんなよ」

「ん。」

私が頷くと、ベルは心底嬉しそうに、笑った。

「王子の死に顔、オマエにだったら見せてやってもイイぜ」

王の正しい終わり方
(ねえベル、わたし、人類最後の日が少しだけ楽しみになってきたよ)