言葉を求めることも温もりに包まれることも、もうとうの昔に諦めた。愛が終わったのだという表現が一番適していると思う。
「XANXUS」呼びかけてみる。情事を終え、早々にワイシャツに袖を通していたXANXUSは、何だ、と返す事すらも億劫らしく目線だけで応じた。昔は呼べば髪を撫でてくれた。名前を呼んでくれた。思い返すとそれは明確で、思わず笑ってしまった。ただ会っては肌を重ねるだけの空っぽの関係。――優しくされていたころの記憶がいつまでも拭えなかった昨日までの私は、愛が終わった、を認めることすらいつまでも否定し続けていた。もしかしたら。もう少し頑張れば。嗚呼、嗚呼、ばかみたい。

「ねえ、XANXUS、私に酷いことをしてくれないかな」

何言ってんだてめぇ、なんて思ってるんだろうな。
普通に聞いたら私ただのマゾヒストだ。別にいい、XANXUSにどう思われたって構わない。もうどうでもいいのだ。――ただ、私の中にいつまでもウジウジ燻っている「あのころ」のXANXUSを殺すためには、やっぱり本人に協力してもらうしかないのだ。


「なんでもいいよ、蹴るのでも、叩くのでも、浮気でも、なんでも」

XANXUSは私を嫌って、私もXANXUSを嫌って、そうして私はようやく解放されるのだ。もう会うのだってこれっきりだろうな。私はぐらぐら揺れる視界と、失われていく平衡感覚を強く感じながら、XANXUSを見つめる。
いつかに比べたらだいぶ伸びた前髪。変わらない赤い相貌が一瞬、私の心理を読み解くべく鋭くされたが、それもすぐに外された。隊服をばさりと羽織ったXANXUS。なんだ、これで終わりか。そうだよね、XANXUSがこんな私の願いを聞いてくれるなんてありえない。彼はきっと、私が死に際だってそうするだろう。嗚呼、薬が回ってきたみたい。雑音が煩くなってきた。私はかつてないくらいの寒さを感じてシーツを体に巻きつけたが、そのころにはもうあたりの音はすっかり何も聞こえなくなっていた。

「    」

XANXUSがふと、何かを口にした。私は目を凝らしたけど、昔からどうも読唇術は苦手だ。できるわけねぇだろ。そう言ったように見えた。
出て行くかと思われたXANXUSが傍にやってきて私に手のひらを向けた。殴られることを覚悟して固く目をつぶれば、その手のひらは私の首の裏に回り、触れるだけのキスが唇に落とされる。目を見開く私に背を向けてXANXUSUは部屋を出て行った。最後に見た瞳には、あの愛おしさが一瞬だけ垣間見えたのだ。
――XANXUS、今のは私が思いつく限り一番酷いよ。
頬を伝う涙の感覚さえも失われた時、私の心に残った感情は暖かく優しいものだった。最期の最期に、殺し損ねたあのころのXANXUSに会えたのだ。
これ以上の死なんて望めそうにない。私は微笑んで呟いた。(おやすみなさい、私の愛した、ワンダーランド)
微笑みと雑音

企画「少女と星屑」提出