奴は後悔してるだろうか。私なんかと出会ってしまった事を。

「こんな所に居やがったか」
「…あー…見つかっちゃったな」

へらりと笑って見せればこの上なく顔をしかめたXANXUS。私は口角を落として目をつむった。XANXUSが苛立っているのが分かる。当たり前だ。私はもう何年もこいつの部下として優秀な働きをしてきたわけで、そんな私をXANXUSも少なからず信頼していたわけで。
その信頼を、わたしは、裏切った。


「俺を見ろ」
「…」
私はこんなに静かに怒るXANXUSを初めて見た。

「テメェのファミリーの情報を吐け。うちから持ち出そうとした情報を返せ。そうすれば命は助けてやる」
「…無理だよ」
「なら今…ここでカッ消すまでだ!」

そうしてほしい。この手に握るボンゴレの情報は私にとって重すぎる。
――何度感情が無ければいいと思ったか。
ボンゴレ9代目の温厚な振る舞いも、若き10代目やその守護者達の隔てない優しさも、ヴァリアー部隊の意外な居心地の良さも、
XANXUSの、思いの外あたたかい、愛情によく似たそれも

知らなければよかった

「私を生かせば、私はファミリーにボンゴレの全ての情報を流すよ」
「死ぬのが望みならそうしてやる」
「…XANXUS」
「その口で、俺の名を呼ぶんじゃねぇ。虫唾が走る」
「XANXUS」
「、テメェ」
「大っ嫌い。嫌いだよ。アンタを好きだったことなんて一度も無い。――憎いよ、XANXUS」
XANXUSが引き金を引いた。私は心臓を撃ち抜かれて意識が途絶えるその瞬間まで、XANXUSの瞳から目をそらさなかった。


奴は後悔するだろうか。

私の開き切った手のひらから零れたSDカードの中身が空だと知った時。
本物が自分のデスクの上に置いてあったのを見た時。
私のファミリーが、ヴァリアーに潜伏しているうちに他のファミリーに潰されちゃってたと分かった時。

私が、本当にXANXUSを愛していたのだと気付いた時。


―――しないだろうな。

好きだよ。大好き。憎くなんかない、嫌いなんて嘘、本当は誰もよりも強くて、誰よりも孤独で弱いXANXUSが大好きなの。
だから耐えらんなくなった。
嘘を吐き続けて生きながらえている事が辛くなった。
大好きなの。
愛してたの。
だから、さ…


さようならをしようか。


奇妙な話、心臓が止まった後、私にはまだちょっとだけ感覚が残っていた。
私の体は地面に倒れる間もなくXANXUSに抱きとめられて、優しく、優しく、抱きしめられた。

(神様の意地悪)

どうせなら聴覚も残しておいてよ
(そしたら耳元で何か囁いたXANXUSの声が聞こえたのに)

どうせなら視覚も残しておいてよ
(そうしたらまたあの優しい眼差しが見られたかもしれないのに)

どうせなら味覚も残しておいてよ
(そしたら私の頬に落ちた水滴の味も分かったのに……ねえ)

どうせなら
どうせなら、さ


(喉が枯れるまで、貴方への愛を叫びたかったなぁ)

企画「tragedy」様 提出