愛してあいして止まなかった人に七年振りに遭った。
彼の伸びた髪を見て、笑ってしまった。彼を真似て伸ばしていた髪を思い出した、今はもう切ってしまったけれど。

「ははは……生きて、たんだ」
「う゛ぉい!もう少し嬉しそうな顔してみろぉ」


優しい響きと共にふわりと降りてきて、頬に柔らかい感触と彼の唇から発せられた音を聴いた。彼の声は記憶のものよりずっと静かで心地よかった。
顔を上げると照れたように視線は宙に向けられ、口ごもりながら「元気にしてか?」だなんて聞いてくる。

のん気な響きに驚きは何処か遠くに飛んで行った。
代わりにものすごく恥ずかしいような嬉しいような、そんな気分になる――ちゃんとお化粧したっけ。

ちょっと散歩するつもりだったから服もおざなりだし、それに、何て言ったらいいか――頭の中を駆け巡る事は思慮の浅い、虹みたいに一瞬で消えることばかりで、本当に言いたいことが何も出てこなかった。


沈黙の後、口を開いたのは彼からだった。


「なんか前より青白くなったな。ちゃんと食べてるのか?」
「うん」
「変わりないみたいだな、安心した」
「スクアーロも、相変わらずヘタレで安心した」
「誰がヘタレだぁ!」


ぎょっとした顔をして彼は押し黙った。
何故だろうと思うと同時に頬を伝う生温さに気付いた。
意に反して流れ続けるそれに暫く呆然としていると彼は焦ったように私の腕を掴み、場所を変えるとかなんとか叫びながら小走りしていく。

目まぐるしく変わる景色が、これは尋常ではない小走りだと教えてくれたけれど気にならなかった。
走るので精一杯だけれど、言わなければいけないことを思い出した。




息も絶え絶えに彼の名を呼ぶ、止まってと。
速度を緩めて振り返った彼とぶつかった。顔を上げると数年前と変わらない色が剥がれずにいる奇麗な眼がこっちを見ていた。


「も、う一度会ったら言おうとしてたこと、あるの」
「…ああ」
「耳、貸して」

「なんだ?」と言いながらも少し屈んでくれた。相変わらずの優しさが今日は一段と身に沁みる。
こういうところが大好きだった――違う、大好きだ。



七色の虹から白を剥いでみた