くそったれ!毒づくあたしを隣でしげしげと眺めているのはかの有名な暗殺部隊の作戦隊長様だった。彼はもうかれこれ2時間、こうして私の愚痴に付き合っている。

「信じらんない、あの、インポ野郎」
「何荒れてんのかと思ったら…またフラれたのかぁ」
「フラれてない!」

キッと睨みつけて手元にあったグラスを一気に煽る。楽しい気分の時は日本酒。どん底な気分の時はウォッカと心に決めている私が今飲み干したのはもちろんウォッカだ。


「止めとけ、どうせ吐くのがオチだぁ」
「うっさい!今は飲みたい気分なのー!てかー、何でアンタここにいんの」

私は一人酒がしたかったのだ。
だから私しか知らない(とついさっきまでは思っていた)路地裏の小汚い、けど結構品揃えの良いこのバーを訪れたってのに。席についてみれば隣にいるのはなんとあのスペルビ・スクアーロではないか。スクアーロとは青き善き学生時代を共にしたクラスメイトだ。
勉強に明け暮れていた私と、喧嘩に明け暮れていたスクアーロが仲良くなったきっかけなんてもう覚えていない。とりあえず私達は一日の大半を一緒に過ごした。
その後スクアーロはヴァリアーに入隊し、私はボンゴレ本部で働いている。適材適所だと思った。


「お前がまた泣きついてくる気がしてなぁ」
「何その迷惑センサー。外してくんない?今すぐ外してくんなーい?」
「ちなみに制御機能付きだぁ」
「はーあ?って、ちょっと、何勘定してんのよ」
「1瓶空けりゃ十分だろうが。出るぞ」
「まだのむっつーの!離せよドスケベアーロ」
「う゛ぉ゛ぉいい!!」

足元のおぼつかない私をおぶって、スクアーロは店を出た。白みがかった明け方の空に、私の酒臭い息もふわりと溶け込む。
西の空に、忘れ去られたように鈍く光る小さな星を見つけた。なんだか泣けてきた。

「っがんばれー!」
「う゛ぉ!て…テメェ人の耳元で叫んでんじゃねぇ!」
「がんばれー、えっぐ、がん、ぅ…く」
「あ゛――!もう泣くな!うるせぇ!」
「うるせーって何よぉ!」

私はぐしゃぐしゃと目元を拭ってスクアーロを睨みつけた。

「私はねぇ、あれなの!あのちっぽけな星なのよぉ」
「…ハァ?」
スクアーロが怪訝そうに見下ろす。
「他の星たちとの輝き競争に疲れ果ててんのに、明け方までこうやって残業して、それなのにその努力を誰も知らないなんて、かわいそう…!がんばれー!私は見てるよー」
「ったく…酔っ払いがぁ」
「……あんま相手してくれないから、だって」

私がぽつりと溢した言葉を、きっとスクアーロは拾ったのだろう。

「ばっかじゃないの、ってね、こちとらマフィアやってんのよー?敵潰したり書類に追われたり忙しいのに、24時間ずっと一緒になんていられるわけないじゃん、ほんとバカ、脳たりん」
「そうだなぁ」
「一日一時間電話してあげるのだって、すごい大変なんだから…こっちは寝る時間、削ってんのに…っさぁ、そんで別れてくれって意味わかんない、」
「ああ、」
「しかも昨日、町で女の子と歩いてんのみたし、結局うわきじゃねーか、ばぁか…」


何だかやりきれなくなって、たまらなく自分が惨めに思えて、スクアーロの首に抱き着いたらその長い髪から良い匂いがして安心した。私がグッサリ傷ついた時を見透かしたように、スクアーロはいつも隣にいるのだ。本当にセンサーついてんのかも。


「見てると思うぞぉ」
「…?」
「…あ゛ー……あれ」
スクアーロが顎で指したのはもう消えかけた例の星だ。

「新聞配達とか…早起きのジジイとか、よぉ。…見てんじゃねェのかぁ?」

これはスクアーロなりに慰めようとしているのだ、と思う。
私はスクアーロの肩に顎を乗せてぼんやり頷いた。


「……俺も知ってるぜぇ」
「え…?」
「ずっと見てたからなぁ」

スクアーロは足を止めて肩越しに私を振り返った。私のよく知る流し目は、果たしてこんなに憂いを含んでいただろうか。夕日によく似た朝日が、銀色の糸のようなスクアーロの髪をきらきら輝かせる。私の心臓が息を吹き返したように高鳴るのに、スクアーロは気付いたはずだ。

「いい加減、俺の方も向いてみろぉ」

儚い白色を好むの

1222 企画「笑うポラリス」様 提出