「おい、お前なんで昨日帰った」

朝から面倒臭い奴に会ってしまった。

「用事があったので(君らが青春ごっこウハウハしてたからだよ!)」
「そうか。なら今日こそ来い」
「遠慮します」
「理由は」
「こんな朝っぱらから校門前で待ち伏せてるあなたと一緒に行動したくないので」
「なっ」
「ここまでキッパリ跡部を拒否る奴も珍しいよな」
「せやから言うたやろ?岳人」
「ああ」
「?」


跡部の後ろには、昨日の朝会った忍足とおかっぱ頭の人がいた。二人と一緒にいるってことはこの人もテニス部か…。そういえばファイルにあったなぁ。確か、向日岳人。

「それにしても、目立つな俺達」
「異色ですからね」
向日の独り言に思わず同意してしまえば、三人からちょっと驚かれた。
だ、だってそうだよね!
朝校門の前で(アイドル並の人気を誇る)テニス部レギュラー3人と銀髪の転校生が突っ立ってる謎の状況を「異色」と呼ばずして何と呼ぶんだ。…浮きまくりだよもう。



「俺は向日岳人。アンタ気付いてっか知らねェけど同じクラスだから」
「そうでしたか。すいません」
「や、いいよ。あと俺の他に宍戸ってのも同じクラスだから。後で紹介してやるよ!」
「どうも」
「ええな、岳人は。なまえちゃんと同じクラスやなんて」
忍足はふうと息を吐きながら呟いた。向日がにっと笑ってそれに応戦する。跡部は相変わらずテニスとはなんだらと説いているし。――こうしてみれば彼らは普通の少年だ。

「おはよぉ、皆!」彼女の存在さえなければ、もっと平穏に日常を送れたろうに。



「よう」
「おはようさん、亜里沙」
「よ!今日も朝から元気だな」
「えへへ!あ…なまえちゃんも…お、おはよぉ」
「?…おはよう」

亜里沙はぎこちなく言って目をそらすと「じゃあ皆またねぇ」とすぐに立ち去ってしまった。

「何か様子変だったな」
「俺もそう思う」
「何かあったんちゃう?」
「あいつ隠してるとすぐ顔に出るからな。…後で聞き出すか」
「せやな。亜里沙、変なとこ意地っ張りやねんからなぁ」

軽い談笑をしつつ昇降口に入った彼らに続いて、私も入る。
すると向かい合った下駄箱の前で呆然と立ちすくむ亜里沙が目に入った。跡部たちは異変に気づき、すぐさま亜里沙に近づいた。

「おい亜里沙、一体」
「け…景吾ぉ」

目に涙をいっぱい貯めた亜里沙の震えた指先が下駄箱を指す。鳥居と書かれた下駄箱の中に入った上履きには「死ね」「ブス」等の落書きに加え、靴底には敷き詰められた画鋲。

「な、んやこれ」
「どうなってんだよ…何で、亜里沙が」
「う、ひっく…あ、ありさ、何もしてなっ…のに」

――ピーン。分かっちゃいました真犯人。
それは顔を覆い隠して泣いてるそこのあなた!証拠は歪んだその口元です。

「…誰がやりやがった…!」
跡部の声は静かだったが、激高しているのは目に見えてわかった。

「亜里沙、なんや心当たり…あらへんのか?」
「そうだぜ。お前さっきも様子おかしかったろ…?俺らに言えって」

顔を覆っていた亜里沙の片手がゆっくり離れる。震えた指先が再び指そうとしているのは、ほぼ100%私だった。


「ひ…っく、ひど、いよ…なまえちゃ」
亜里沙が言い切るその前に、軽い動作で彼らの近くへ駆け寄った私は跡部と亜里沙をどんと遠くに押しやった。―――バーカ。まだ、思い通りにはいかせませんよ。

「…大丈夫ですよ。」

修羅の罠
ドツボにハマるのは癪なので、上手く躱させていただきます。

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