あれから教室に戻って授業を受けて、あっと言う間に部活の時間になった。クラスメイト達の視線を背中にチクチク感じながら教室を出て、部室に向かう。 「あ、…先輩!」 「?」 昇降口に差し掛かった辺りでミドリちゃんに会った。 いつかの約束を交わしたあのミドリちゃんである。 私はさっとあたりに視線を向けて、知り合いやテニス部員がいないことを確認すると彼女に向かって手を振った。 「今から帰り?」 「はい。先輩は……部活ですか?」 ミドリちゃんの顔が陰る。私は明るく彼女の背中を叩いた。 「大丈夫だって!心配しないで」 「…でも」 「実はさ、今はね、私にはとっておきの秘密兵器があるの」 「え?秘密、兵器?」 「そ。だから大丈夫!じゃあね」 あんまり一緒にいるところ見られると、今度はミドリちゃんに被害が加わりそうだからな。 しかし、歩き出した私の袖をミドリちゃんは掴んで呼び止めた。 「先輩!」 「ん?」 「私、まだ先輩の名前を」 「なまえ」 私はにっと笑って答えた。 「苗字なまえ!それじゃあね、ミドリ!」 今度こそさよならをして私は歩き出した。 「…」 (まずいな) ちょっと見られちゃってたみたい。 あいつの視線 (アイツ…あんな顔でも笑えんのかよ) ×
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