私がどれだけ次の、時間を、心待ち、にしていたことか!私が感動に打ち震えテンションが急上昇している事に気付いているのは恐らくベルだけだ。
この学校に来てから、こんなに楽しみに思った事があっただろうか!否!
無表情の私がそんな事を考えていると、前方の戸が勢いよく開いた。

静まり返る教室。
かつ、かつ、と教室に足を踏み入れたザンザスを目にした私は、無言で静かに、静かに、机に突っ伏した。

くぁっこぉいいいいい…!
ネクタイめっちゃ似合う!
程よく着崩したスタイルとか、伊達眼鏡とか、も…萌

トントン、机が叩かれた。
顔を上げると叩いたのは横から伸びてきた手だ。

(きもい)

口パクでそう告げられた。流石に反論はできなかったので、私は緩む口元を引き締めるために頬をつまんだ。

「始めろ」
低く放った声はいつもと相変わりない。ただ酷く殺気を孕んでいるのは言うまでもない。
日直の子が慌てたように号令をかけ始め、私もベルもそれに従った。
何人かの女子達は頬を染め、顔を寄せ合ってこそこそと囃している。ちょっざけんなよ。ザンザスに色目なんて遣った暁にはアンタ…私の人差し指と中指が君らの両目をロックオン!
(おっつ)
ザンザスと目が合う。

一瞬だけ、柔らかくなった目尻に気付いたものはいないだろう。
私は心臓が高鳴るのを感じ、静かに深呼吸をした。
やばいなあ。やばいな、私。あんなに憂鬱だった授業にこのテンション。このままじゃ任務に支障が出てしまいそうだ。ザンザスが来なければこんな心配は無用だったのに。

来てくれた嬉しさがその気持ちを上回るのは言うまでもないが。


「着いて来い。できねぇドカスはいらねェ」

チョークを持ったザンザスは、目を見張るようなスピードで黒板に英文を連ねていく。
5か国語コンプリートな私とベルは、ザンザスが書いていくペースで内容読解を進められるわけだが、周りの生徒達はポカンとしたアホ面を黒板に向けたままだ。

黒板の下まで書き終えたザンザスの手の中でチョークがボキりと音を立てた。
「授業終了までに和訳しろ」


言い捨てたザンザスはどっかりと椅子に腰を下ろし。その長い足を教卓に乗せて踏ん反り返った。嗚呼、ああ、それこそ我らがボスのあるべき姿!
もしレヴィがこの役だったらきっともう計画はおじゃんだ。
ザンザスのこの姿を目にした時点で、私は早くあの執務室でこうしてるザンザスを見たくなって、早くイタリアに帰りたくなって、早く戦う任務に就きたくなって、早くザンザスに褒められたくなった。

目先の餌に飛びついてみる
カリカリカリカリカリカリカリ…
(うわ、なまえマジだ)

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