「なまえー!」
「?」

4時間目の授業が終わり、教師が出て行った反対の扉から飛び込んできたジロー。後ろから衝撃を感じたかと思ったら甘いにおいに包まれた。(…あ、今誰かの悲鳴聞こえたな)
「一緒にお昼ご飯たべよー!」
「…いいですよ」
「終わったら俺、またなまえに膝枕してほしいC〜」

クラス中に筒抜けの会話。しかしジローは気にしたふうもなく、むしろそれを狙っているかのように振る舞った。
すると訪れる批判の声。

「おい、ジロー」
「ん?」
「何そいつなんかと慣れ合ってんだよ。…激ダサだぜ」
「じろぉ…どうしてぇ?」

亜里沙は宍戸の背中にぴたりと張り付いて、涙声でジローに尋ねる。
それでもジローに動揺の色は見えず、私は内心でとぎまぎしていた。

「俺はなまえの味方だC」
「っ何言ってんだよ!」
「だって…なまえはそんな事しない。…皆何で分かんないんだよ」最後に付け足された言葉は寂しそうに聞こえたが、宍戸はフンと鼻を鳴らすだけだった。


「分かってねーのはお前だろ!なあ、岳人」
「…ああ」
「それともお前、亜里沙が嘘吐いてるとでも言うのかよ」

亜里沙の肩がピクリと揺れたが、誰かの目に留まるレベルではなかった。
声を荒げる宍戸とは反対にジローは落ち着いている。

「それは分かんない。でも、とにかくなまえはやってないCー!」
「お前っ…ジロー!」
「ジローちゃん」
今にも掴み合いの喧嘩が始まりそうな勢いだったので、あまり入りたくなかったが仲裁として私はジローの服を掴んだ。

「…行こう、ジロー」
泣きそうなジローは頷いて、それから宍戸達にもう一度顔を向けると、今までで一番悲しそうな声で静かに告げた。

「俺、今の皆は 嫌いだC」


(ごめんねジローちゃん)

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