「お前、どこ行ってたんだよ!」

教室に戻ると向日がすっ飛んで来て尋ねてきた。

「どんだけ心配したと思ってんだ」
「心配…?」
「お前、亜里沙のこと助けただろ?」
――あれは助けたというのだろうか。良い人演じただけなんだけど。
「だから、どっかの苛め野郎に連れてかれてリンチにでもあったんじゃねーかって!…あ!」
向日は思い出したようにポケットから携帯を取り出して、耳に当てた。

「もしもし。跡部?あいつ今帰ってきたから。ああ」
「!」
向日は肩で器用に携帯を支えながら私の腕をとり、袖をまくって頷く。
「見たとこ、どこも怪我してねぇ。…おう、分かった。侑士にも言っといて。じゃな」
「…」


ピッと通話を終了した向日はもう一度私を上から下まで見て、安堵の息を吐いた。

「くそくそ、まるで無傷じゃねぇか」
「怪我して帰ってきた方が良かったですか?」
「ば、ばっか!ンな事言ってねー」
「ふふ」
「…。あのよ」

3時間目開始を告げるチャイムが鳴るまで残り2分。向日は真面目な顔になって、私と向き合った。

「朝は、どうもな」
「…?」
「亜里沙の事」
「…ああ」

何であなたがお礼言うのさ。お礼言うべきは、窓側の席でこっちを睨みつけてるあそこの彼女なんじゃないの。――そうは思うが、ここは素直に受け取っておこう。

「…卑怯なやり方が気にくわなかっただけですから」
「お前いい奴だな!」
「いえ、別に」
「ところで、お前今までどこにいたんだよ」

ここで、教師が入ってきたため会話は一時中断となった。
私が席に着くと、斜め前の帽子くんが一度こちらを見て、しかし何も言わずにまた前を向いてしまった。――たぶんあれがこのクラスのもう一人のテニス部員、宍戸亮だろう。しかしこんなに席が近かったなんて驚きだ。

斜め前の敵
これで、ほとんどのレギュラー部員に会った事になる。

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