「じゃあまた明日ッス、なまえさん」
「気を付けて帰るんだよ」
校門の前で二人に手を振って別れる。かえりみち ひとりであるく 徒歩下校(一句)なぜ徒歩下校かというと私はバイクを持っていないからだ。賊学の生徒には珍しく。この際だからあたしが賊学の中で非常に「珍しい」存在である点を述べてみようと思う。
・バイクを持っていない(賊学生はバイクが大好き!)
・膝上のスカート(賊学女子生徒は殆どがロンスカ!)
・黒い髪(染めてないだけなのに浮く賊学マジック!)
・いじめられてる(リナこの野郎)
・そんで、ルイの彼女(今はもう前の話になるけれど)
ああ、あと忘れちゃいけない、私は
「さあて、一曲いきますか」
この学校で唯一、トランペットが吹ける女の子なのであった!
苛立たしげに廊下を突き進んでいるのは、賊学のヘッドとも言われる葉柱ルイ。葉柱が通ろうものなら人垣は左右にさけ、王者が通るが如き道が拓いた。
目に見えてわかる葉柱の苛立ちを感じ取ったのか、その道は普段よりいくらか広い。
「…ッカ!使えねェ!」
部室のドアを蹴り開ける。中には怯えたようにこちらを伺う者の姿はない。それもそのはず、先ほどから総動員であの女を探させているのだから。
そして、入った報告はこうだ。
「逃げられた、じゃねェだろが…!ふざけやがって」
腹の底から湧き上がる苛立ちを抑えきれずに、葉柱の長い脚は部室の隅に置いてあった椅子を蹴り上げた。
***
「お、い…!リナ…お前、その頬」
「えへへ、ぶたれちゃった」
「!」
「あ、ダメだよルイ!どこに行くの?」
「…どこでもねェよ」
「うそ。なまえちゃんの所でしょ?」
「ッあいつ!ぶん殴らねェと気が済まねぇ!」
「そんな事しないで、なまえちゃんとは、リナがちゃぁんと話しつけるから、ね?」
痛々しく笑うリナを見ていられなくて。
「…リナ」
「なぁに?ルイ」
「今日は帰れ。明日も、辛かったら来なくていい」
「でも…マネージャーの仕事が」
「ンなもんなまえにやらせろ!お前はゆっくり休んでてくれ…頼む」
――俺がアイツと話しつけるからよ。
頷いて帰って行ったリナとの約束を俺は果たさなきゃならねェのに、逃がした、だと!?カッ!使えねェカス共が!
葉柱は怒りのままに壁を殴った。
そして、ひとしきり暴れると、壁を背にずるりと座り込む。
俺は、何にここまで腹を立ててんだ
「……」
ほんの少し開いた窓の隙間から、風に乗って微かに音が聞こえた。俺が聞き間違えるはずもない。――なまえの、音だ。