「それじゃあまたね、なまえチャン」嫌味たっぷりに言い残していったリナをうっかり殺さなかったことを褒めてほしい。

しかし一度閉まったかと思われたドアは再びガラリと開けられた。反射的にビクついた体に気付かれないように体制を低くしてそちらを睨みつけ、そして、息を吐く。



「イイ感じに殺気立ってるじゃないかい、なまえ」
「大丈夫ッスか!?今、あの女が出てくのが見えたけど」

「メグ…カズ…おどかさないでよ」

へえ、アンタでも驚く事なんてあんだねェ。くすっと笑ったメグに私も笑い返す。その様子を見てカズもほっとしたように表情を緩めた。

露峰メグと井上一美は、私の数少ない友人だ。リナの巧みな戦法によって離れていってしまわない二人は中々のキレ者なのだと思う。
そして不思議なことに二人を前にすると、あたしの中の汚い黒々とした澱はすべて洗い流されていってしまうのだ。つまり、私は二人が大好きなのである。




「なまえ…アンタ、このままでいいのかい?」

メグの瞳が悲しげに揺らぐ。一見怖そうに見える(実際怖い時もある)けど、実は優しい彼女にこんな表情をさせてしまって、申し訳ないと素直に思った。
メグの言葉にカズも続ける。

「こんな誤解…なまえさんなら解こうと思えばいつだって」
「それが、解けないんだよね」
「っ」
「何でか分からないけど、ルイはもうあたしを信じる気はなさそうだし」

一美が目を怒らせてこぶしを握る。



「俺達流のやり方で、アイツに喋らせればいいじゃねェか…!」
「バカだね。…これだから荒っぽいのは」
「でも、メグさん!」
「なまえが我慢してるんだ」
「!」
「自分なんかより遙かに弱い奴に勝手されるのを、我慢して耐えてるなまえがいるってのに、あたし等が好き勝手やってどうすんだい」



「ごめんね、二人とも」

へらりと笑って、顔の前で手を合わせた。


「自分で気づいてほしいの、期待してんの。あたし…バカだからさ」

何回裏切られても、もしかしたらと小さな期待が必ず心のどこかにある。
蹴られても殴られても、心の底から憎むなんて到底できない。



「もう少しだけ、信じてたいんだけど」

いいかな?と二人に答えをゆだねてしまった。メグもカズも仕方なさそうに頷いてくれた。メグはほんのちょーっとだけ泣きながら「ほんとにバカな子」と頭を撫でてくれたし、カズなんてメグより涙目で、ただ何度も頷いていた。

―――信じてくれる人がいるだけで、こんなに強く在れるなんて知らなかった。あたし、まだ頑張れそうだよ。…ルイ
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