後方の引き戸が控えめに開けられた。「なまえちゃーん!」にっこりと微笑まれても、あたしは全くドキドキキャッキャしませんから。なんてったってこの事態の首謀者はあなたなんだもの。次の瞬間にはニコッがニヤッに変わるって事はもうお見通し。………ほらね。


「調子はどーお?」
「だいぶ気分悪い」
「それは良かった!リナに感謝してよねぇ」
「ありがとてんきゅー。ついでに、あたしの前から消え失せてくれたらもっとテンキュー」
「…ッむかつく女」



リナの細い腕が高々と上げられる。叩かれる、痛みを堪えるべく目を閉じ―――たりは当然しない。だってあたしの方がリナの何倍も強いし。細めた視線でリナを見つめ続ければ、怒りに顔を染めたリナはその勢いのままに、あたしの頬を打った。
さすがに痛い。だけど、やり返さない。
自分の非になることはなるべくしたくないからね。頭いいあたし。



小柄で白い肌、セミロングな焦げ茶の髪は内側にゆるく巻かれている。傍に寄れば嫌でも香ってくる香水、同時に一見きめ細かな肌がファンデーション諸々の力を借りてようやく成り立っていることが、やはり嫌でもわかってしまう。

それなのに世間の、違うか、賊徒学園のバカな男子生徒共は、賊学に珍しい「ゆるふわ女子」を溺愛しているのである。


女子生徒たちは早々にそれを見抜き、リナの内面にも気付き、しかし訳在って知らぬふりをしている。あたしもそれが良いと思う。だってこの女相当面倒くさい。



「アンタ、またルイに何か吹き込んだでしょ。やめてよあの子バカなんだから」
「…本当にウザったい女ね。それからルイのこと"あのこ"なんて止めてくれる?今は、わたしの。彼氏なんだから」
「…本性バレた暁には、きっと殺されるね。うん絶対」
「ご心配なく。あんたが黙ってればバレる心配ないんだし…―――あ!」

くるりとこちらに向いたリナの、なんと醜いことか。


「黙ってなくても、アンタの話なんて誰も聞いてくれないんだっけ?」


どんな絆よりも固い
どんな関係よりも深い、確かにそう思ってたのに、



…あー!止めやめ!このままの思考でいくとあたしどんどんルイ達を嫌いになっちゃうよ。あたしは気持ちを切り替えて、リナを睨んだ。

「あんた、何でこんなことしてるの」

リナは笑う。


「とてつもなく苛立ってて、ストレスが溜まってて、暇でしょうがなかった時、丁度あなたが通りかかったからよ。」

そんな理由で失ってしまったあたしの居場所は「ちっぽけ」だったのだろうか。
それともあたしを取り巻くこの世界自体が「ちっぽけ」だったのだろうか。

どちらにせよ、そんな理由で人を苦しめる目の前の女は、きっと「ちっぽけ」に違いない。
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